悪い噂 Ⅱ (ページ34)

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『樹くん、』

「俺、Aちゃんの口からちゃんと聞かないと信じないから」

樹くんには、ちゃんと言わなくちゃ。
でも、喉の奥がつっかえて言葉が出ない。
言いたいことなんてたくさんあるのに、目の前にいる樹くんが樹くんじゃないみたいに怖くて、脚も震える。

「ふざけんなよ、」

『ぇ、』

「認めないから、俺の側から離れるなんて」

『じゅ、り、くん』

それだけ言うと、彼は去った。
残された私はその場から動くことなんてできずに、ただ静かに涙を流していた。

この涙が、悲しさからなのか、恐怖からなのか分からないけれど、ただただ止まらなかった。

・

「心配した、ここにいたのね」

『ほく、』

「やっぱり首輪必要？(笑)」

そう笑う北斗はきっと分かっている。
私が泣いていたことも、樹くん関連だってことも。

「泣いてるなら側にいたいの。だから1人で泣かないでってば」

困ったように、もう何度目か分からないその言葉はじんわり心の中に染み渡る。

『ごめん、』

「いいよ。帰ろ」

ぎゅっと握った掌は温かくて、冷えきった心までも温めてくれた。この手の温もりを離したくない。