CANVAS【〇】 (ページ33)

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「A、わざわざありがとうね」

「いーの。それより仕事間に合う？」

「全然余裕だから大丈夫」

余裕、と言いながらも料理をしてる手元はいつもより幾分か慌ただしくて、わたしが探すのに手間取ってたからかな、と少し申し訳ない気持ちになる。

20分もしないうちに、「あとはこれ温めるだけだから。仕事行ってくるね」と言って仕事に行ったお母さん。

1人か。

お兄ちゃんが家を出て、お父さんが単身赴任になってからは何回も1人になることなんてあったのに今更寂しくなる。

それはきっと、今日1日、ずっと加藤くんといたからなのかもしれないって少し感じる。

いい感じに温め終わったご飯を見て、もうそのまま食べちゃおうと思ってお皿にご飯をよそう。

いただきます、と1人で呟いてご飯を食べ始める。

やっぱり、少し寂しい。

話す相手がいなければ、食べ終わるのなんて当然すぐだし。

15分もしない内に食べ終わって、食器を下げてそのまま洗う。

面倒なこともう先に全部やっちゃえ、と思ってお風呂のお湯を張りに行こうとしたら、既に張ってあった。お母さんが張ってくれたのかな。

ならそのままお風呂はいっちゃおう、と思って着替えを取りに行ったりしてすぐお風呂に入る。

お風呂も上がって髪を乾かしていると、携帯からピコンっと音が鳴って画面が明るくなる。

『改めて、今日はありがとう』

その言葉だけが見えて、送り主は加藤くんかってことだけがわかる。

髪を乾かし終えてメッセージを開いてみると、チャットの中にアルバムが出来ていた。

『実はAの写真も少しだけ撮ってて。綺麗に撮れたから送っときます』

少し他人行儀のような、いつもとは違う硬い文章のメッセージに思わずふふっと笑いがこぼれる。

アルバムを確認してみると、紅葉の写真の中にわたしの写真もほんとに混ざってて驚く。

でも、そんなことよりも驚いたのは。

「わたし、こんな｜表情《かお》するんだ、」

今までの小さい頃のアルバムでも見たことのなかった自分のたのしそうな表情。

自分にこんな表情ができるんだって驚く。

加藤くんにお礼のメッセージを送ったりしながら、せっかくなら何枚かプリントアウトしようと思って部屋にある小さなプリンターとスマホを繋げたりする。

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