19. ページ21
.
加藤くんに手を引かれて着いたのは普段使われることの無い空き教室。
教室に入ってドアを閉めた瞬間、繋がれていた手が離されて加藤くんが振り向く。
「…A」
「ん、？」
「やっぱこやまさんと長谷川に言お。俺らのこと」
「……愛菜とけいちゃんには何処まで話すの？」
「俺らが付き合ってるってことだけ」
「っでも、まだ言う必要ないんじゃ…」
「だとしても、俺はあんな表情してるA、見たくないよ」
加藤くんが言う"あんな表情"がどんな表情なのかなんて、私には分からない。
ただ、一つだけ分かるのは、
「……それって、今の加藤くんみたいな表情？」
「え、」
「すごく苦しそうで、悲しそうな表情」
「……もしかしたら、そうかもね」
私があの時の自分の表情が分かんないのと同じで、加藤くんだって今の加藤くんの表情は分からない。
『もしかしたら、そうかもね』っていう曖昧な言葉だったけど、今の加藤くんはさっきの私と違って、自分の表情がどんな風なのか分かってるんだ、、。
なんだか、何も言えない雰囲気になってると私の携帯がスカートのポッケの中でぶーっとなる。
確認すると愛菜からで、『大丈夫？何かあった？』というメッセージが来ていた。
心配させたくなくて『大丈夫。ちょっと話したいことあったみたい』と返事をする。
既読はすぐについて『加藤になんもされてない？』という言葉が返ってくる。
思わずふふっと笑ってから『なんもされてないよ。笑』と打つ。
「…Aはさ、ほんとに長谷川のことが大切なんだね」
「……うん。高校入学して最初に話しかけてくれたの、愛菜だったから」
「俺にとっての小山みたいなものか」
私にとっての愛菜が、加藤くんにとってのけいちゃん。
それって、それくらいお互いが大切な存在ってことだよね。
授業開始5分前の予鈴が鳴る。
戻ろっかっていう加藤くんの言葉で空き教室から出る。
教室に戻ってすぐ、けいちゃんと目が合って席を立って私の方に来ようとしたけど、先生が教室に入ってきたからそのまままた席に座った。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 174人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：にゅすの さくら | 作成日時：2022年7月11日 12時
