一周目 ページ44
それは、俺と光里が結婚してから、少したったある日の事だった。
仕事の帰りに偶然にも善野さんと会った俺は、彼の誘いで、二人で飲みに行くために、大通り近くの暗い道を歩いていた。
「…この辺りを通ると、あの頃の事を思い出すね」
「……そう、ですね」
「僕も君も、あの頃は、とても若かった。いや、君はまだ若いか。僕が老けたんだな」
あの頃のこと。
俺はAの死こそ納得はしていたが、それでもまだ、俺の中で、アイツを求めている自分がいた。
だからか、俺は善野さんの言葉をちゃんと返すことが出来ず、俯いて、ただなんとなく相槌を打つ事しか出来なかった。
「…………そういえば、そうだ。今更言うのもアレだけど、その事で、腑に落ちないことがあってね、いつか君に相談しようとは思ってたんだけど」
「……相談、ですか?」
「相談というか、質問というか。ほら、僕らがA君の家に遺品整理に行った時にさ、押入れから凶器やら資料やら、沢山出てきて、一度打ち止めになっただろう?」
「ああ、はい、そうでしたね……」
「その凶器の事なんだけど、……足りないんじゃないか、と思ってさ」
一瞬、心臓が止まったかと思った。
顔が引き攣っているのが、自分でも分かる。
凶器、きっと、コレのことだ。
そう思って、俺はポケットの中のハサミをグッと握りしめた。
「足り、ない?」
「うん、ハンマーや、投げナイフの類は出てきたらしいんだけどね。大きめのナイフが、一本も出なかったんだよ。一本は僕ら警察が回収してるけど、A君の事だ、一本は予備を持っててもおかしくない。それで、思ったんだけど、もしかして、陽雅君___」
…………は?
今、何が起きた?
俺の手に握られているのは、Aの、あのハサミ。
そして、そのハサミと俺の腕は、真っ赤に染まって、てらてらと光っている。
目の前には、______腹部を抑えて倒れる、善野さん。
「やっぱり、君が…持って、たのか………!」
苦しそうに呻きながら、目を見開いて俺を見る善野さん。
鼻腔に広がって行く血の匂い。
何がそうさせるのか、ふわふわとする頭の中。
__________嗚呼、そうか。
「……お前か?__________A」
この血の匂いも、そうだ、アイツだ。
“帰って来た”んだ。
やっぱり、死んでなんかいなかった。
A……!
俺は迷わずに、再度善野さんにナイフを振り下ろす。
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もくもく@鬼灯なぅ - みーさん» あ、本当ですね!ご指摘ありがとうございます! (2015年11月7日 1時) (レス) id: 4a5e4162ae (このIDを非表示/違反報告)
みー(プロフ) - 報告書二枚目の、近所の大学生と若い警官数名が犠牲になった事件で、夜行が夜光になっています。故意でしたら、すみません。 読んでいてとても引き込まれる話で、面白いです。私もこんな風にかければなあ笑 (2015年11月4日 20時) (レス) id: bcd7e9b2cd (このIDを非表示/違反報告)
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