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気がついたのは、何気ないことだった。


ただ友達とじゃれているだけなのに、その手が皮膚にふれただけで体が勝手にびくりと浮いて。

勘違いじゃないか、たまたまじゃないか、なんて言い訳を並べ立てたけれど、次の日も、その次の日も、誰かにふれることも、ふれられることも出来なかった。



何よりも辛かったのは、この時点で5年以上一緒にいた海人にも恐怖心を抱いてしまったことだった。


「かいとー?」

「ん?」

「ここのさ、」


本当に、いつものこと。

決して違和感のある距離ではないのに、ほんの少しふれた肩に、体が大袈裟に跳ねた。


「っひ、」

「…え、海斗?」

「なんでも、ない、…ごめん、なぁに?」


少し考える素振りを見せた海人は、困ったように眉を下げた。


「なんでもないは…聞きたくない、かも」

「へ、」

「…おれにも言えない?」

「っ、」


今思えば、このときから海人は、俺の家庭の異常に気づいていたんだろう。

このときはまだお互いの家を行き来していたから、日に日に荒れていく家と、それから俺の、服では隠せないくらいに広がったあざを見て。



「…教えて、ほしい。守らせてほしい。…おねがい、海斗」

「海人、…あのね、」


腹をくくって、着ていたシャツをまくりあげて。
 
驚いたように目を見開いた海人が、苦しそうに顔を歪ませて、それでも優しく優しく抱き寄せてくれたのを皮切りに、俺はこの日、初めて父親のことで泣いた。


このときから、海人の腕の中のぬくもりは、ずっと変わらない。


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 ぽとり、涙がひと粒、写真に落ちた。
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作者名:翡翠 | 作成日時:2023年5月16日 18時

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