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六月二日の本能寺 ページ39

バタバタと、女中の走り回る音。

あちらこちらで響く怒声。

炎で埋め尽くされた視界の中で、彼の存在は目立っていた。

今度こそ、織田信長も終わったか。

帰蝶さまの手元から私が離れて早十年。これまで何度も死地をくぐり抜けてきたが、流石にもう終わりだろう。

しかも、よりによって焼き討ちとは。

我々も巻き添えとなってしまうではないか。迷惑な話だ。

「おい、蝮。いるか?」

薬研の付喪神の姿が見えた。私を目捉えると、嬉しそうに子供のような笑みを浮かべる。

戦場ではあれほど冷酷なのに。彼の本質を読み違え、騙されそうになるこれは、本当に質が悪い。

「蝮、ひとつ提案があるんだ。聞いてくれねえか」

大抵、こんな時の提案は良いものではない。知っている。

「刺し違えないか?」

ほら。やっぱり良いことじゃない。

「我侭者だなあ。君は、本当に。私は死に場所ぐらい自分で選ぶよ。

私はここでは死にたくない。焼けても、打ち直されて、どこかで絶対に……

明智の日向守に復讐する」

そう言うと、薬研は少し驚いたように顔を歪め、それから諦めたように肩を落とした。

「まあ、それもそうだな。お前はそんなやつだ」

戻るか、と独り言のように呟いて、薬研は本体の在り処へ戻っていく。

最後、部屋から出る前に薬研は振り返った。

「なあ、蝮。本当の名があるんだろ?

最期に、それを呼ばせてくれないか」

耳に心地よい低い声。

彼の手に、そっと私の手を添えた。

「私の名前は……」

願い→←右手平手打ち



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ツキアカリ - キリンの妖精、キリンロングさん» ありがとうございますm(_ _)m語彙力おばあちゃんにならないように頑張ります(?) (2019年5月18日 23時) (レス) id: 5a16b46531 (このIDを非表示/違反報告)
キリンの妖精、キリンロング - 世代交代(?)頑張って下さい←語彙力の枯渇 (2019年5月18日 22時) (レス) id: 390c1ef0c5 (このIDを非表示/違反報告)
ツキアカリ - ふはいねこさん» 応援ありがとうございます!期待に添えられるように頑張りますね(。・ω・。)ゞ (2019年5月17日 23時) (レス) id: 5a16b46531 (このIDを非表示/違反報告)
ツキアカリ - 前作者さん» 読みました、自分の文章力でどこまでできるか分かりませんが、この作品をもっとよく出来るように頑張ります! (2019年5月17日 22時) (レス) id: 5a16b46531 (このIDを非表示/違反報告)
ふはいねこ - ツキアカリさん» はじめまして。作者交代お疲れ様です(?) 二代目になっても応援してますね。頑張ってください。 (2019年5月17日 22時) (レス) id: 5701e6bc20 (このIDを非表示/違反報告)

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作成日時:2018年12月25日 22時

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