真夜中の厨房にて ページ17
長谷部が私を抱えたまま廊下を闊歩するが、誰も気に留めない。
いや、正確には違う。
私のことを新実装刀剣と思い近づく者こそあれど、
誰もお姫様抱っこに何も言わない。
彼らにはお姫様抱っこという概念がないんだろうな。
こっちは恥ずかしいったらありゃしないのに。
そりゃあまあ、刀剣男士にお姫様だっこをされるのは嫌じゃないんだけど!
嫌じゃないんだけど……
なんとも言えない複雑な感情に教われた。
宗三と不動が待つ部屋に着くと、長谷部が事情を説明し、布団を敷き始めた。
どうやら、私を寝かせてくれるらしい。
「俺たちはいつも通りここで好きにしとくから、お前は気にせずに寝ていろ」
長谷部が優しく言ってくれた。
「うん。ありがとう」
決して顕現酔いはしていなかったけど、色々あったせいで疲れていたからか、私はすぐに眠りについた。
目が覚めたのは真夜中で、空には僅かに満月に満たないほどの月が浮かんでいた。
何も食べていなかったせいで、ひどく空腹だった。
長谷部に言われた通りの所に行くとちゃんと厨房があった。
なかなか綺麗な場所だ。掃除も短刀が全てさせられているんだっけ。
冷蔵庫の中に食材を探すと、明日の朝食だろうか、大皿にマカロンがたくさん並べられているのを見た。
マカロンって、相当技術が必要って聞いたけど……
凄いなあ、とため息を吐いて、大皿を戻そうとすると、二つだけ不格好なマカロンが載せられている、小さな皿を見つけた。
書き置きが添えてあ、拙い字で、『Aさん』と書いてあった。
私……?
書き置きを裏返すと、『二つ、失敗してしまったので、もしよかったら食べてください』と、今度は大きさの揃った綺麗な字で書かれていた。
誰だろう。
誰がしてくれたのか分からないけど、見えない相手からの優しさに、涙が零れた。
それと同時に、私は、今やっと、自分が一度死んでしまったことを理解した。
転生なんて、あまりに非現実的過ぎて、どこか、夢の中のような甘えがあった。
だけど、私は死んでしまったんだ。
お母さんにも、お父さんにも、真弓に、もう会えない。
この世界で生きていくしかない。
たとえ、推しに命を狙われても、自分の正体を打ち明けられる人がいなくとも。
私は、厨房の中で声を押し殺して泣いた。
マカロンは、甘くて美味しくて、少ししょっぱかった。
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ツキアカリ - キリンの妖精、キリンロングさん» ありがとうございますm(_ _)m語彙力おばあちゃんにならないように頑張ります(?) (2019年5月18日 23時) (レス) id: 5a16b46531 (このIDを非表示/違反報告)
キリンの妖精、キリンロング - 世代交代(?)頑張って下さい←語彙力の枯渇 (2019年5月18日 22時) (レス) id: 390c1ef0c5 (このIDを非表示/違反報告)
ツキアカリ - ふはいねこさん» 応援ありがとうございます!期待に添えられるように頑張りますね(。・ω・。)ゞ (2019年5月17日 23時) (レス) id: 5a16b46531 (このIDを非表示/違反報告)
ツキアカリ - 前作者さん» 読みました、自分の文章力でどこまでできるか分かりませんが、この作品をもっとよく出来るように頑張ります! (2019年5月17日 22時) (レス) id: 5a16b46531 (このIDを非表示/違反報告)
ふはいねこ - ツキアカリさん» はじめまして。作者交代お疲れ様です(?) 二代目になっても応援してますね。頑張ってください。 (2019年5月17日 22時) (レス) id: 5701e6bc20 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時:2018年12月25日 22時