雨降る夜に待ち合わせを【桃】 (ページ11)

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信号が青になった瞬間、彼は駆け寄って来た
　
　
　
『神田さんやないですか、また奇遇ですね』
　
　
「こんばんは、奇遇ですね」
　
　
　
　
俺の傘やと私のさす傘を指差して笑ってる
　

　
　
『あげた傘、使ってくれてたんですね嬉しいわ』
　
　
「違います、会ったら返そうと思って持ってるだけです
　でも2本持って歩くの荷物になるんで、今は被らせてもらってるだけ」
　
　
　
「それより新しい傘、本当に買ったんですね」
　
　
『ん？あぁ、まあ
　そんなことより、返すつもりやったとして帰りはどうするつもりやったんですか』
　
　
「それは・・・、濡れて帰る覚悟でした」
　
　
『あかんよ！そんなんして風邪引いたら大変ですよ
　今日はもうそのまま帰ってください、いい？」
　
　
「でも、またいつになるか分かりませんよ、返すの」
　
　
『じゃあ、連絡先教えてくれませんか』
　
　
「連絡先ですか？」
　
　
『次は、返す日を決めて会ったら悩まなくて済むでしょ」
　
　
「そうですね、その手がありましたよね、気づかなかった」
　
　
『神田さんって意外と天然なんですね』
　
　
　
そう笑う彼が憎くて、愛しかった
　
　
　
　
　
『ありがとう、じゃあまた』
　
　
　
連絡先を交換したあと、また連絡しますと言って彼とは別れた
　
　
　
　
　
　
家に着いて、ため息をひとつ
　
　
　
　
玄関にはいつも通りまだある彼の傘
　
　
電話帳には小瀧望の文字
　
　
　
　
口元が緩んだのが分かった
　
　