あなたの温もりに ページ43
「今日君がいなければ私が死んでいたように、君を必要とする人がこれから大勢現れる」
彼女はたくさんの人を救うことができる。
たくさんの人を勇気づけることができる。
Aを抱きしめる手に少し力を込めた。
「虎杖さんはもう、呪術師なんですから」
Aは唇を噛み締めた。
「忘れないでください」
これだけは知ってほしかった。
君の手は血だけに塗れているわけではないのだと、わかってほしかった。
「ここに、君が助けた命があることを」
鼻の奥がツン、と痛くなった。
目頭が熱くなって、喉の奥が震える。
なにかが崩れる音がした。
堰を切ったようにAの瞳から涙が溢れた。大粒の涙をいくつも落とし、唇を震わせて、むちゃくちゃに泣きじゃくった。
七海はAが目元を強くこすらないように促しながら、正面から彼女を抱きしめた。
「ここにはだれもいません。……好きなだけ、泣くといい」
涙は辛いものだ。
だが、流さなければならない。
感情を整理するために。隠された己の気持ちを理解するために。
(……私には、それができなかった)
友を失ったあの日から今まで、涙がこぼれることはなかった。なぜだか、できなかった。
じわり、とシャツに涙が滲む。
不安げに揺れていた手を背中に回させて、シャツを掴ませた。
「ごめん、ごめんっ……」
「大丈夫ですよ、虎杖さん」
大丈夫。
今だけはなににも脅かされなくていい。なににも怖がることはない。好きなだけ泣けばいい。
ここには大人と子どもしかいないのだから。
「大丈夫」
何度そう呟いただろうか。
波が引いていくように、泣き声が聞こえなくなった。まだしゃくりあげてはいたが、落ち着いてきたようだ。
「ナナミン」
くぐもった声に「なんですか?」と返す。
鼻をすすった彼女はしばらく口をもごもごさせたあと、シャツに顔を埋めたまま言った。
「……もう少し、このままでもいい?」
このまま、あなたの温もりにすがっていたい。
あなたの温もりに身を委ねていたい。
こうやって抱きしめられたのも、大声で泣いたのも、本当に久しぶりだった。
「えぇ。もちろん」
優しい声に、Aはぎゅっと目を閉じた。
709人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
柊(プロフ) - ハルヒさん» ハルヒさん、コメントありがとうございます!私もこの2人が大好きなんです〜!応援ありがとうございます!頑張ります!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
ハルヒ(プロフ) - ヒェッ…ナナミン好きやからこの2人のカプ嬉しい…応援してます頑張ってください!!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 46554589d7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:柊 | 作成日時:2021年1月6日 0時