目覚め ページ41
Aは天井をじっと見つめていた。
目が覚めたのはつい数分前。体の至る所が痛むし、巻かれた包帯がごわごわして落ち着かない。
だが、生きていた。
Aは辺りに人の気配がないのを確認すると、上半身を起こした。
ベッド脇のテーブルに置かれていたスマホを手に取る。電源をつければ、七海から留守番が入っているのを見つけた。
再生ボタンを押す。
『虎杖さん、おはようございます。気分はどうですか? また伺います』
たったそれだけ。十数秒の言葉。
耳に押し当てたスピーカーから流れる声音は、柔らかく、とても優しいもので、Aは息を吐いた。
電源を切ろうと伸ばしかけた指が途中で止まった。
電話番号の欄に、ある少年の名前があった。
Aから何度もかけているが、すべて着信拒否になっている電話番号。
「……吉野、純平」
その名前を読み上げて、Aはぱたり、とスマホを床に落とした。
体はひどく重たかったが、行かなくてはならないと思った。どこへ? どこかへ。以前五条に教えてもらったあの場所へ。
夜なのだろうか。
静まり返り、暗くなった廊下を歩きながらAはぼんやりと考える。
そこは呆気なく入れた。
霊安室、と書いてあるドアを開け、するりと部屋の中に入る。
パーカーを羽織ってはいたが、そこは冷えていた。
長袖の上から腕をさすりながら、Aはじっ、とそこに並べられているものを見下ろした。
黒い袋に包まれたそれらは、静かにそこにある。
そのうちの一つを、見つめていた。
あの中身を知っている。
見てはいないが、わかるのだ。
目の前で散った命。
すがりつく手は地面に落ちて。
涙を流す瞳が頭にこびりついて離れなかった。
「…………ごめん、順平」
助けられなくて。
「……ごめん」
もっとほかの未来があったかもしれない。
結局あたしは変わらないまま。
だれも救えないまま。
助けられないまま、終わった。
どれだけそこにいただろうか。
出入口の開く音でAはようやく身動きをする。
カツ、カツ、と革靴が地を叩く音。
それがだれの足音なのか、顔を上げずともわかった。
「説教?」
小さな声がこぼれた。
隣に立った彼は、Aと同じほうを見つめながら、同じく小さな声で返した。
「命を救ってくれた相手に説教もクソもありませんよ」
Aは睫毛を震わせた。
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柊(プロフ) - ハルヒさん» ハルヒさん、コメントありがとうございます!私もこの2人が大好きなんです〜!応援ありがとうございます!頑張ります!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
ハルヒ(プロフ) - ヒェッ…ナナミン好きやからこの2人のカプ嬉しい…応援してます頑張ってください!!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 46554589d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柊 | 作成日時:2021年1月6日 0時