この歳で泣きたくはない ページ21
「えぇ!? 吉野順平の自宅に!?」
[大丈夫大丈夫。じゃああたし、これから夕飯食べて映画観るから]
「夕飯!? 映画!?」
なんとか蠅頭を捕まえることのできた伊地知は車の中で素っ頓狂な声を電話の相手にぶつけていた。
その相手はAで、なんと今、吉野順平の家にいるそうだ。
いったいなにがあってそうなったのかはわからないが、相手は監視中の人間だというのに。
「私もすぐ向かいます。違和感を抱いたら逃げてくださいね」
たとえ彼がこの事件に加害者側に加わっていたとしても、今のAが簡単にやられるとは考えにくい。
だがこれは由々しき事態だ。
Aに万が一のことがあったら。というかそもそも吉野順平の家にいることが七海にバレたら。
確実に怒られる。
電話を切り、シートベルトを装着した伊地知はいつになく真剣な表情でハンドルを握りしめた。
ちゃんぽらん代表の五条に怒られるのはまだしも、大人オブ大人の七海に怒られたら――
(私はたぶん泣く!!)
この歳で人前で泣くなんて絶対に嫌だ!!
アクセルを踏もうとした瞬間、スタンドに立てていたスマホが着信を知らせた。
画面には七海建人の文字が。
(ハイ、叱られる!!!)
[ごめんなさい]
開口一番謝罪され、七海は首をかしげた。
「位置情報を送ったので、ピックアップをお願いします」
公衆トイレの洗面台にもたれかかり、七海は右脇腹にトイレットペーパーを押し当てていた。
それにはたくさんの血が付着している。
「私は一度高専に戻って家入さんの治療を受けます」
[ち、治療!?]
「大丈夫。死ぬような怪我じゃありません」
洗面所に広がる赤色を横目に七海はなだめるような声を出した。
たしかに痛みはするが、これくらいで死にはしない。
[すぐに虎杖さんと合流し、そちらに向かいます」
力を緩めていた七海の体がぐっと固くなる。
[一緒じゃないんですか?]
紛れもなく怒気を含んだ声に伊地知はびくっと肩を揺らす。うっかり口を滑らせてしまった。
[……詳しいことはまた伺います。とにかく、ピックアップ、よろしくお願いしますね]
「は、はい」
こってり絞られることは確定した。
下手なごまかしをするより、Aを巻き込んで正直に白状し、一緒に怒られてもらおう。
電話が切れたのを確認し、伊地知は吉野順平の家へ車を走らせた。
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柊(プロフ) - ハルヒさん» ハルヒさん、コメントありがとうございます!私もこの2人が大好きなんです〜!応援ありがとうございます!頑張ります!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 64b7ea7410 (このIDを非表示/違反報告)
ハルヒ(プロフ) - ヒェッ…ナナミン好きやからこの2人のカプ嬉しい…応援してます頑張ってください!!! (2021年1月13日 23時) (レス) id: 46554589d7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:柊 | 作成日時:2021年1月6日 0時