手紙 ページ9
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寂しく一通の封筒がテーブルの上に乗っている。その上には、私の名前が達筆な字で書かれている。切手も消印もないので、郵便物ではなく、誰かが直接私に宛てた手紙であると分かる。
ドクンドクン……急速に速まる鼓動が喉までせり上がり、吐き気をもよおす。その拍動が全身に伝わって体を震わせた。
恐る恐る指を伸ばして手に取ると、予想に反した重みと厚みが伝わり、裏を返すと同居人の名前があった。
あの人の居ない理由が、もうただの外出ではないことは明らかで、隠していた不安と緊張が怒涛のように押し寄せてくる。
ごくりと生唾を飲み込み、封を切った。
出てきたのは私の名義の通帳と便箋。
震え続ける指で便箋を広げると、そこには表の宛名と同じ筆跡で、あの人の言葉があった。
Aへ
もう私はこの家には戻らないことにする。
行く先は知らせずに行く。
お前は自由に生きなさい。
今まで、すまなかった。瑠美子にもAにも。
お前の母さんが死んだのは私のせいだと分かっている。
謝って許されることとは思っていない。
けれど、本当にすまなかった。
最後に、伝えさせて欲しい。
夫として瑠美子を、父としてAを愛していた。
たが愛し方が分からなかった。
せめてお前には幸せになって欲しい。
父より
ぐしゃりと便箋を握る手に力が入った。
眉間をぐっと寄せ、歯を噛みしめる。目を伏せ項垂れると、いくつものシミが服に落ちてゆくのが、朧気に映った。
上半身だけをソファに預けて寝転ぶ。見慣れた白い天井が、やけに広がっているように思えて、寂しさが煽られた。右腕で目を覆い、視界を遮断する。
止まらない涙が絶え間なく目尻から流れ、こぼっと耳に入る。
今更、謝らないで欲しかった。
母を愛の無い冷酷な鎖で縛り、傷付けたあの人が、私を最初から最後まで娘と認めることのなかったあの人が、本当は愛していた……?
そんなこと、信じられない。信じたくない。
今までのあの人の罪は、愛し方が分からなかったで済まされるの?
もうお母さんは帰ってこないのに。
憎い、許せない、あんな人なんか居なくなって清々した……
なのに、何故こんなに哀しいんだろう。
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時