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違和感 ページ8

本日何回目かの電車に揺られて帰る。

 このまま何処か遠いところに行ってしまいたい。知らない街の知らない駅まで、この電車が私を運んでくれたらいいのに。

 そんな心の声は届くことも叶うこともなく、やはり見慣れた駅に停車して、引きずり出されるように足はホームに降りた。


 どうして私はあの同居人に縛られているのか。何も知らせることなく、あの人の前から消えてしまえばそれで済むかもしれない。それでもあの家に帰り、家事をこなす手を休めることもないのは、何故だろう。

 私はまだ期待しているのかもしれない――たった一日だったとしても、あの人が"父親"になってくれる日を。

 そんな自分が馬鹿みたいで、自嘲めいた笑みを道路に落としながら家の前に辿り着いた。


 俯きながら門を開けて庭に入り、玄関の前でふと立ち止まった。何か違和感を感じ取る。けれど、それが何によるものなのか分からない。

 頭の片隅に残る嫌な記憶が疼く。いつか感じた不安に似ている気がした。

 それがいつのものだったか思い出せないまま、やたらざわめく胸を押さえて、玄関のドアを開けた。
 土間を上がり、靴をそろえながら気付く。


 いつもの声が無い。


 いつもより遅いこの時間に、何の連絡もなしに帰れば、怒気を含んだ冷たい声が夕飯を急かすはずなのに……。
 別にいつの日もあの声がやって来る訳ではないし、その声を望んでいる訳でもない。けれど、今日は嫌な感覚が止まらない。

 そう言えば、灯りも点いていない。寝ているのか、もしくは帰らない私にしびれを切らして何処かに食べに行ったのか。当たり障りのない予想をしてみる。

 下駄箱を確認すると、あの人の靴は無かったので、やはり外食に向かったのかと結論付けた。

 違和感はあの人の気配がないだけだったのか、とまだ残る不安を振り払うように、無理矢理に胸を落ち着ける。

 本当はそれだけじゃないと、この時に感じ取っていて、気付かないふりをしていた。

 リビングに入り電気を点け、ソファに腰を下ろすと、一枚の紙が目に入って、ドクンと心臓の音が全身に響き渡った。

手紙→←矛盾



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設定タグ:オリジナル , 名前変換 , 不倫   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
- 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
- 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時

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