安らぎ ページ43
分かる、共感、というような言葉で表すには軽すぎる、重い感情が私の体を埋め尽くしてゆく。
「A……」
体がどうしようもない溢れる思いに突き動かされて、由貴を横から抱き締めていた。
私も泣いていた。
部屋の中に降り積もる二つの涙の声が、一つとは違って温かくて、心をやんわり溶かしてゆく、そんな感覚が癒しを与えてくれる気がした。
「ありがとう」
目頭から全身に伝わった熱で汗がじわっと滲んだ頃、由貴が呟いたその言葉は、どんな言葉よりも丸くて空気を優しくした。
彼女の辛さは彼女にしか分からないし、私の辛さは私にしか分からないけれど、こんなに辛いんだって、こんなに苦しいんだって、そんな風に嘆いた時、そっと隣に居て心の傷を感じ合える。
冷たさが浮き彫りになりかけている世の中で、痛みを想像し共有し合える人が居るというのは、この上ない安らぎだと思う。
「ごめんね、A」
「どうして?」
理由の分からない言葉に意表を突かれ、ふっと腕を離して彼女を見つめる。
「私、Aにちょっとでも楽になって欲しくてAを連れ出してたのに、本当は自分が誰かと居たくてAを利用してた」
体育座りの両膝の上で顎を付けていた顔を、くるりとこちらに向けて、ごめんね、と儚く笑う彼女の瞳が心に刺さった。
「謝らないで……私は由貴に救われてたから」
「ありがとう」
「ありがとう、は私が由貴に言うことだよ」
そして二人で涙を拭きながら笑って、買ってきていたお酒を飲んでお菓子をつまみながら、今まで話していなかったことや誰かに打ち明けたかったこと、そんな互いの恋についての話を沢山吐き出した。
そしてすっかり夜も深くなって、この部屋の灯りも街の中に残された小さな欠片になった頃、由貴は一つ息をゆっくり吐いて問いかけた。
「Aはこれからどうする? まだ未来のことは考えてない感じ?」
「どうだろう。まだよく分からない」
「実は私もね、これからどうしたいのか、はっきり分からないの」
普通の恋愛や結婚、家庭を持つこと、そこに願望がないわけではない。独り身で居るのも、この時代では幸せになれる一つの道だと思う。
けれど、どこに進むにしても、何かを選んで一歩を踏み出すという気力が無かった。
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時