寒さによく似たもの ページ42
-Aside-
由貴の真剣な眼差しに息を飲み、視線と僅かな頷きで答えた。
店員さんにお勘定をお願いし、少しの料理を残したまま、席を立った由貴についてレジまで向かう。
由貴が支払いを終わらせ二人で店から出た時、私がいつも通りに財布の中から半分の額を渡そうとすると、隣の彼女はその手を制して「今日は奢らせて」と少しのごめんねを漂わせながら微笑んだ。
二月の夜の空気はキンと肌を刺す。暖かい室内の名残の温もりは、外に飛び出した途端に外気に奪い去られ、上着の隙間から凍える夜風が滑り込む。お酒で火照った体温は、敵うことなく消えた。
乱れ弾け飛ぶ声の中のコンビニで、ジュースとお酒、そしてデザートやお菓子もそれぞれ好きなように買って、だらしなく袋をぶら下げながら、店の灯りが作った二足の影を連れて遅い速度で歩く。
一歩ずつ進んで行くと徐々に灯りの数が減って、いつしか街灯が頼りない光で濁す暗めの夜道を進んでいた。
取り立てて言う程でもない、本当に何処にでも転がる話題でその時間をいたずらに埋めている間も、由貴の意識はどこか上の空で、そこに彼女にとって重い荷物があることが私には伝わっていた。
「私、また間違った方に進んでたの」
由貴の部屋の中で落ち着いた時に、空気に重く溶けて床に沈むように彼女が発した一言だった。
「過去のあの人から、また会って欲しいって言われて、寂しさに負けてその言葉に引きずられちゃったの」
それは丁度、朝倉さんと私が最後の挨拶を交わしたあの頃くらいだそうだ。そこから関係が続いて、会うだけや話すだけが、次第に以前と同じ関係へと流れるように進んでしまい、三ヶ月前に別れた由貴は、その傷を埋めるために平凡な愛を探そうとしていたのだ。
「ばかでしょ、私。前と同じようになると分かってたつもりだったのにね。何で、こんなに弱いんだろう」
そんな言葉を吐き出した時、彼女は既に泣いていた。体全部で涙を纏っていた。
「どれだけ他の恋をしようとしても、そうすればするほど、忘れられなくて。彼に苛立ったことも沢山あったはずなのに、彼の輝きしか思い出せなくて」
"忘れられない"――彼女の零した言葉が深く食い込んだ。
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時