冷える心 ページ5
大学方向に向かう電車に乗り込み、扉の近くに立ちながら流れる景色をただ眺める。この景色も毎日少しずつ変わっているんだろう、あんな所に薬局がある、こっちにはガソリンスタンド……。そうやって、 気を紛れさせてみるも、彼の面影が全身に染み込んで離れない。
もしかして、全てが夢なのではないか。突然目が覚めたら、お母さんが笑っていて、お父さんと呼べるような父親が居て、朝倉さんは本当は年の近い未婚の男性で。
そんな夢物語が現実なんじゃないかと、頭の中で妄想を並べ立てる。
そんなこと、あるはずないのに。
もし奥さんより先に彼と出会っていたら良かったの?
そんなこともあるはずなくて、本心ではそんなこと望んでいない。
奥さんと彼の愛は誰も立ち入れない程に強固で、紛れもなく本物で。加えて、どうあがいても超えることの出来ない程、奥さんは遥か上の存在で、素敵な人。彼女の愛の深さには到底敵わなくて。そして、私はそんな奥さんが好きで、尊敬している。
邪魔しておいて、こんなことを言える立場はないけれど、あの夫婦は出会うべくして出会って、結ばれる運命だった。必ず幸せになる二人だ。
ごめんなさい、二人を三年間も遠回りさせて。この愛をどう償えばいいだろうか。別れだけで、許されるのだろうか。
どう考えても私の存在は無意味だった。自分の中でそれを反芻すると、途端に胸が締め付けられた。私を必要としてくれる人はこの世に居るのだろうか、誰にとっても無意味な存在なのではないか、そんな考えが心を蝕む。
そうこうしている内に、大学に着いていた。由貴の待つ休憩室の扉を開けようとして、躊躇う。引っ込めた手を、握りしめる。
ここを開けば、由貴の時間をこんな面倒な私に使わせてしまうことになる。彼女にとっても、私なんか要らない存在なのかもしれない。
帰ろうと踵を返そうとした時、向こう側から扉が開いた。
「お疲れ様、大変だったね。兎に角、入って休もう?」
「ありがとう。何か、由貴の顔を見たら安心した。だから、もう帰るよ。研究頑張って」
一息に言い切って、その場から離れようとする。これ以上居たら、泣いてしまう。
「だめ、入って」
優しい声が私を引き留めた。
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
あ - 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時