幸せだからいい〜その2〜【名前変換オリジナル】

友人の愚痴 ページ40

「じゃ、乾杯！」

　私達の行きつけの居酒屋の個室で、好みのアルコールでグラスの音を鳴らす。由貴がビールで、私は梅酒、そしてこの店おすすめのメニューをおつまみにして舌鼓を打つ。嫌なことがあったとき、アルコールで脳を癒せるのは大人の特権だよね、何て心の中で少し得意気になってみる。

　そして早速向かい合う彼女が、大きめな声でまくし立て始めた。

「聞いてよ！ この前の合コンの男、ほんと最低だったんだから！」

　由貴の話はこうだ。

　大学時代の後輩の紹介で集まった合コンで、相手の条件は顔よし、経歴よし、年収よしのハイスペックと謳われていた。
　自分は最年長の三十路で、どうせこの合コンも自分は人数合わせ、寄ってくる男も居ないだろうと聞こえてくる会話を何となく聞きなから、マイペースに飲んでいた。
　そろそろお金だけ置いて帰ろうかと思っていた時に、その中の一人に「僕もこういう所苦手でさ」と声をかけられ意気投合したらしい。

　大人びた人で落ち着いていたから、後日もう一度会ったのだが、食事を終えたところで急に体の関係を迫られた。そこで愛想を尽かした彼女はさらりと振ったのだけれど、男は逆上して悪態をつきまくって帰ったらしい。

「『年下に抱かれるなんて行き遅れのババアにとって最高だろ！ お前なんか一生誰も抱いてくれねぇぞ！』って、ムカつく！」

「うわ、最悪。結局飾りだけハイスペックだったってことか……」

「そうなの！ こっちから願い下げだっつーの」

　はぁ、と大きなため息をついて今日何杯目かのビールを一気飲みする由貴は、怒りのせいなのか酔いの回りがいつもより早いように思う。

「でもどうして急に合コン？ 前は、合コンなんてがっついてるみたいで嫌、って言ってたのに」

　近頃の彼女の変わりようを疑問に思っていた私は、ふくれっ面の彼女の方に向き直り聞いてみた。
　すると由貴は、遠い目をして僅かに微笑み、さっきとは違う切なげなため息をついた。

「忘れたいの、ちゃんと……」

　少し私の方を見た彼女の、哀しみを目一杯詰め込んだような瞳に、「何を？」とは聞けなくて、ただ目を合わせて黙ることしか出来なかった。

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