幸せだからいい〜その2〜【名前変換オリジナル】

友人の失恋 ページ27

-隆side-

　あの夏の日をずっと後悔していた。

　一度だけ電話を入れたが、それは居ても立っても居られない不安にまみれた自分を落ち着かせるためであって、Aとしっかり向き合うことが出来なかった。

　それからというもの、あの日のAの怯えた目や涙、最後の悲しい目や走り去った後ろ姿、自分の罪を責めるものばかりが嫌と言うほど脳裏にこびりついて離れなかった。


　もう一度ちゃんと謝り、そして真面目に想いを伝えたかった。例えAが頷かなくても、ただ知っておいて欲しかった。

　携帯の通話ボタンを何度も押そうとしては止め、そんなことをバカのように毎日繰り返して、結局数ヶ月の日々を見送った。


　ある夜どうしても眠れず、ベッドに寝転んで伸びをし、両手を上に上げたままぼんやり天井を眺めていた。

　こんな夜は思考が深まり、哀しみや後悔が蒸し返され、ため息が重なる。

　俺の頭には、ただひたすらにAのことが渦巻いていた。

　Aは今どうしているだろうか。広樹さんとは続いているのだろうか。仕事や家庭はどうなのか。

　そう考えていると、胸の奥の後悔の傷が激しく痛み出し、今すぐAに謝らなければならない、とほとんど衝動的に携帯を掴んだ。
　今まで躊躇い続けてきたはずなのに、この時の俺は何の迷いもなくボタンを押していた。

　呼び出し音が続いた後、Aの声が返ってきたが、それは求めていた色とは違った。少しの怒りと落胆に満ちた声で少し泣きそうに、どうして、とAは繰り返す。彼女をこれっぽちも満たせないことが悔しくて食い下がったが、全て突き放された。

　そして少しの間を置いて聞こえた、「何も変わらない」という答えは俺の心を突き刺した。

　胸が痛くて声が出ないでいると、Aに悟られ、謝られてしまった。それが情けなくて、俺の伝えたかった謝罪で遮った。だが、もう謝らないで、と止められてしまった。

　苦笑いを漏らしていると、耳を疑う事実が告げられた。彼女を傷付けない返事が分からず、短い返事だけしか出来なかった。

　傷付いているAに告白する勇気も奪う勇気もなく、「幸せになれ」なんて台詞で、本当の想いを隠した。

　彼女は今どうしているだろうか。

口を噤む→←再会の風

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す