幸せだからいい〜その2〜【名前変換オリジナル】

悩みと突然の風 ページ25

-Aside-

　はあ、と息を吐けば、その心がどれだけ暗く沈んでいても、キラキラと白く蒸発する。

　奥さんからの文章には、彼女の悲痛が浮かんでいた。ただ目で見る限りの夫の様子を憂いているのではない、もっと何か深いものを推し量って憂いているような、そんな気がした。

　彼女の文字に返事は出来ないままで、何度も朝日を見送った。

　あの秋の日、彼の電話に涙で頬を濡らした時から今までに、数回だけ同じ電話が鳴った。けれど、取れなかった。その度に張り裂けるような想いに顔を歪めた。

　奥さんは、会って欲しい、という言葉を選んだけれど、それが彼の言葉ではない。あの電話の先の声も、何を言おうとしているのか、何一つ分からない。

　私は彼を愛している。

　愛しているから会いたい。でも、愛しているからこそ、会いたくない。相反する気持ちは、隣り合わせで繋がっている。
　会えば、もっと会いたくなる。でも会えば、どんな現実も見てしまうことになる。会えば、もっと忘れられなってしまう。会えば、もっと辛くなるのは目に見えていた。

　会うのが正しいとも思えなかった。奥さんのことだから、何か深い考えがあるのだろう。でも、私には分からない。
　元々、私は部外者である。あの文章から伝わってくる感情を考えると、奥さんは私と彼が再会することにいい気はしないはずだ。彼だって、会ってどうこうなるとは思っていないはずだ。

　私が彼と会えば、あの夫婦の問題が解決するかと聞かれれば、決してそうではないだろう。私の安易な決断で、あの深い絆を切ってはならない。



　私の心とは正反対に、もう春の気配がそこまで迫っているのを感じたある休日の朝、いつも通りに大学へ向かった。
　その門前に居たのは、心が求めていた人影だった。ずっと愛している人だもの、すぐに分かった。

　何度も何度も悩み考えていたのに、どうして突然、背負いきれない出来事が襲うのだろう。

　私は、その人影に近寄ることは出来ない。静かに背を向け、逃げようと元来た方向に歩を進めた。

　けれど、彼も私に気付いていた。

　不意に肩を引かれ振り返れば、それは紛れもなく求めていたあの人で、私はまた泣いていた。

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