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長い数十秒 ページ1

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 私から電話を掛けるなんて、いつぶりだろうか。

 考えてみれば、朝倉さんから連絡先をもらって、会うために電話をしたのが前回だった。
 今回、二回目にして……最後の電話になる。


 彼は何処に居るのだろうと思考を巡らせながら、呼び出し音を聞く。その音が続くことが、何故か不安を掻き立てる。ギュッと携帯を握りしめる。何て長い時間なんだろう。

 逃げ続けていた不安に似ている。

 三年間以上も恋仲を結んでいて、自分から彼を呼び出すのが最初と最後だけ。普通の恋人同士ならあり得ないことなのだと、今になってやっと冷静に直視できる。

 朝倉さんに嫌われて捨てられることが怖くて、自分の欲求は懸命に抑え込んできた。頼りたい時、縋りついて泣きたい時、その衝動が胸を引き裂くとき、私は彼の元に走りだすことは出来ない。いつもただ待って、許された時に癒してもらった。

 だから、一番辛い時は自分を自分で慰めるしかなかった。それが本来の人として当たり前なんだと、天は自ら助くる者を助くと言うじゃないかと、屁理屈を並べて孤独を隠し続けていた。

 愛し合っているんだと思っていたいから、真実を無視して過ごした。愛しているのは私だけで、私は本当は孤独で――そんな不安から目を逸らし続けた。

 この関係を絶つというのに、未だにそんな不安に震えている。
 彼の愛する人は奥さんただ一人だと分かった今、期待することはなく、期待したいとも思っていないのに。

 でも、どうしてもこの電話に応えて欲しいと、心は幼児のように駄々をこねる。

 それは多分、私の彼への愛が消えていないからだろう。

「もしもし? どうしたの?」

 優しい声色が、先程までの緊張を安心に塗り替えてゆく。今まで何度、この安心を必死に吸い込んで、精神を安定させただろうか。

「あの、今大丈夫ですか?」
「うん」

 けれど今は安心に浸る暇は無くて、決心したように唾を飲み込んで、口を開く。

「お話があるんです」



 私から別れを切り出せば、きっとすぐに消えてしまう、そんな脆い関係。

 それが悲しくて、否定したくて、"抜け出せない"と演じていたんだ。

 必要なのは私の意志一つだけ。

喫茶店→



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設定タグ:オリジナル , 名前変換 , 不倫   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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megumi(プロフ) - 楓さん» コメントありがとうございます。深く感じ取って頂けて、作者として本当に嬉しいです。たかが恋、されど恋……愛や恋は人生を大きく変えたり、辛かったり哀しかったり、幸せを与えたり、影響力が強いですよね。こちらこそ、読んで頂きありがとうございましたm(__)m! (2020年2月12日 8時) (レス) id: 0880e9be07 (このIDを非表示/違反報告)
- 叶わぬ恋って本当に辛いの分かりますが、不倫はないので本当に夢主ちゃんは辛かったのだな、と思いました。何が正解で何が不正解なのかなんて誰にも分かりませんが、自分の決意した己が答えを見いだすことが正解なのだと私は思いました。ありがとうございました。 (2020年2月12日 3時) (レス) id: da7e11619f (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます!この頃仕事でバタバタしていたので、更新頻度が落ちていましたm(__)mこれからも頑張りますのでよろしくお願いします! (2019年11月26日 7時) (レス) id: 38c83e71ca (このIDを非表示/違反報告)
- 連続更新嬉しいです!!頑張ってください! (2019年11月25日 23時) (レス) id: 42f53dea12 (このIDを非表示/違反報告)
megumi(プロフ) - あさん» ありがとうございます、励みになります!好きになって下さって嬉しいです( *´艸`)更新頑張ります! (2019年10月19日 20時) (レス) id: d64ff74b54 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:megumi | 作成日時:2019年7月26日 23時

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