フィソステギアと秘心/ymmt ページ9
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「好きです、付き合ってください!」
そう言わなくなったのはいつからだろう。決して恋人がいなかったわけではなく、ただ告白することがなくなっただけだった。
相手から告白されるのが増えて、そのまま付き合って。それに慣れてしまったから、今ものすごく緊張しているのだった。
「あと、5分」
Aさんが来るまでの時間を確認して、スマートフォンを見つめる。僕は今から、彼女に告白するんだ。
Aさんは素敵な人だ。はにかんだ笑顔が可愛くて、ふわふわした雰囲気なのに仕事はバリバリこなすギャップがあって、僕と目が合うだけで顔を赤く染めて目を逸らしてしまう、恥ずかしがり屋さん。
可愛い後輩、という印象が好きな人、に変わるまで、そう時間はかからなかったと思う。好きだと自覚したのは一昨年の夏。なのに好きと言えずに只々時間が過ぎてしまっていたんだ。
「やまもとさん、」
僕を呼ぶとき、ほんの少し舌っ足らずになるところも可愛い。あざといというのは分かってるんだけど、僕は彼女にだけはめっぽう弱かった。
『もうすぐ着きます』
ふいにスマートフォンが震えて、メッセージが届いた。心臓がうるさい。手がじんわりと汗ばんだ。
「…大丈夫」
小さな声で自分に言い聞かせて、大きく深呼吸をした。大丈夫、きっと。何回も推敲した告白の文句を、頭の中で反芻して、自分を落ち着かせた。
「あ、」
キョロキョロと辺りを見回していたAさんが、こちらに気付いた。目を細めて微笑むその姿に、少しだけ安堵する。
「お待たせしてごめんなさい」
「大丈夫だよ、今来たところだから」
今日僕は彼女に告白する。植え込みに咲いたハナトラノオが、風に揺られていた。
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ハナトラノオの花言葉『願いが叶う』
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時