白日の下のミモザ/izw ページ33
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『ミモザの花言葉は、秘密の恋なんだよ』
いつだったか、誰かに聞いたこと。あからさまな薔薇じゃなくて、ミモザを渡すのかっこよくない?って言ってた気がする。
急にそれを思い出して、帰り道花屋さんで買ってしまった…んだよね。
「告白する予定なんてないし…」
予定こそないけれど、告白する相手がいないわけじゃない。相手はいるけど、確実にフラれるのが分かってる。
「伊沢さん、だもん…無理だよ」
ふわふわの小さい花を指でつつく。買ってきちゃったのにどう責任取ってくれるの、なんて行き場のない責任を擦り付けた。
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「Aちゃんいる?」
春休みに入り時間が出来たので、久しぶりにオフィスに手伝いに来ると、伊沢さんがひょい、と顔を出した。
「は、はい」
ライターとはいえ滅多に会うことが出来ない伊沢さんに呼ばれて、心臓が慌ただしく声を出し始める。
伊沢さん直々に私に用があることなんてあるだろうか。ミスしてないし、記事は〆切ギリギリだったけど提出したし…
「何で、しょうか…」
廊下に出て恐る恐る訊くと、そんなに緊張しなくていいよと彼が笑った。
「いや大したことじゃないんだけどさ」
大したことじゃないなら尚更何なんだろう。きゅ、と唇を真一文字に結んだ。
「昨日、花屋で花買ってたでしょ」
「え?」
ミモザを買ったところを、見られていたというのか。昨日私何着てたっけ、変じゃなかったかな、なんて訊かれたことよりも自分の見た目が気になってしまう。
「買い、ましたね」
そう答えると、彼は膝を打った。そしてニヤニヤと子供っぽい笑みを浮かべた。
「あれってミモザだろ?誰かに告白とかすんの?」
「え、あ…いや、そういうわけじゃ」
告白したい相手は伊沢さんです、なんて言えるわけがない。まるで友達に恋愛話を訊く小学生みたいに、伊沢さんは楽しそうに私を見つめている。
「あれ、違うの?」
「違いますよ!そんな…告白なんて」
出来ないですよ。ぽつりと小さな声で呟くと、彼は何か含みのある顔で肩を竦めた。
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時