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「持つべきものはこうちゃんだねぇ」
「え?」
ふふ、と目を細めて彼女が俺を見つめる。笑ったときだけ見えるえくぼに、少しだけ視線を奪われた。
「ちゃんとアドバイスくれるし、話してて飽きないし、一緒にごはん行ってくれるし」
「いや、それは」
Aちゃんのことが好きだから。なんて言えやしないのに口が動いてしまった。それなのに彼女がきょとんとして俺を見つめるもんだから、引くに引けなくなっちゃって。
「そうじゃなくて、えっと、その……」
まだ答えられないのにボタンを押してしまったときと同じだ。どうにか答えを出すしかないけど、何にも思い浮かばない。
「私のことが、好きだから?」
「えっ?!」
ニヤニヤと俺を見つめて、彼女がずいと俺に迫る。え、なんで?どうして、知ってるんだ?あたふたと狼狽える俺に、彼女はケラケラと笑いだした。
「冗談だよ、ほーんとに面白いなあ」
「びっくりすること言わないでよ!」
すごく心臓に悪かった。やめてほしい。でもまあ…さも楽しそうに笑う彼女を見てたら、いいかななんで思ってしまうんだ。
俺の恋愛はあんまり進まない。だけど君が笑ってくれるなら、この友情のままでいい。まだ俺の気持ちを伝えなくても、きっと大丈夫。
そう思うと、帰り道の街路樹の辛夷が、ちょっとだけ輝いて見えた。
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辛夷の花言葉『友情』
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時