花綻スローフォックストロット (ページ22)

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ドッタゲルフのビタミン剤/izw ページ22

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「ねぇ聞いた？408号室のAさん、彼氏いるらしいのよ」
「え、でもお見舞いに来たのご両親と友達だけでしょ」
「そうなの、ちょっと不憫でねぇ」

…聞こえてるんですけど。偶然回診のタイミングで、部屋のドアが開いていることに気づかなかったんだろう。丸聞こえだ。その証拠にほら、先生も苦笑いしてるし。

ぎゅう、と目を瞑ると彼氏＿＿＿＿＿＿拓司の顔が瞼の裏に浮かんだ。確かに、私が入院してから来てくれたことはない。多忙だし、個室じゃないから気を使っているのかもしれない。有名人に数えられる立場である以上、おいそれと来るわけにはいかないだろう。
なんて、それらしい理由はあるけれど、心の中には一抹の不安が燻っていた。

『ﾓｼ､ｱｲﾀｸﾅｲﾀﾞｹﾀﾞﾄｼﾀﾗ? 』

そのまさかを考えるだけで、背筋が凍りそうだ。そんなはずはない、だって拓司は…と言いたいところだが、言いきれないことに腹が立つ。デートしてもクイズのことを考えていたり、記念日を忘れられたり、彼には信用出来ない部分があるのは確かだった。

あーやだやだ、気が滅入る。盛大にため息をつくと、ほんの少しだけ毒も吐き出せたような気がする。ただでさえ入院中だというのに、これ以上精神面を抉るわけにはいかないのだ。

連絡もろくにして来ないやつに、かける情はない。手術前に売店で買った本を手に取った。暇すぎて読み返すのももう3度目くらいになる。

「…会いに来てよ」

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