伏線はハンドクリームと引替えに/ymmt ページ19
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冬って大嫌い。寒いし、乾燥するし。ささくれだった指を見つめ、大袈裟にため息を吐いた。ああまたハンドクリーム塗らなきゃなあ…
紙コップの水を飲み干して、鞄からピンク色のチューブを取り出す。早く夏にならないかな、暖かい方が好きだし。でも夏って暑いじゃん、汗かくのはやだなあ。
「あ、」
なんて考えごとをしていたせいで、手に力が入り1人で使うには多すぎるハンドクリームを出してしまった。比較的やりがちではあるけれど、予防策も解決策もあまりない。
誰かに貰ってもらわないと。キョロキョロと周りを見回すと、山本くんと目が合った。ちょうどいい、彼にあげよう。
「山本くん、ハンドクリーム貰ってくれない?」
出しすぎちゃって。お願い、と頼むと彼は二つ返事で了解してくれた。
「え〜いいよ」
「ありがと!」
手のひらのハンドクリームを半分くらい掬いとって、山本くんの手に塗る。バラの香りのクリームは、男性には少し甘すぎるかもしれない。
「ん、いい匂いだね」
とても素敵な笑顔で彼が笑ってくれて、杞憂だったと安堵する。彼の笑顔になんだかドキドキしてしまうのはどうしてだろう、意識なんてしたことないのに。
「Aさん、ありがとね」
僕の手もいい匂いになっちゃった。その笑顔にまた胸がこそばゆくなったのに、私は気付かないふりをした。
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「あんな簡単に男の手触れるなら、意識されてないんじゃないの」
「いいんですよ…それでも」
一部始終を眺めていた福良さんが、ホクホク顔で戻って来た僕を見て眉根を寄せた。まあ確かに男として意識されてるとは思わないけど。
「そうなの?」
「はい、だって_______」
ちらりと横目でAさんを見やる。涼しい顔で資料を見つめているけれど、項が赤くなっているのはきっと気のせいじゃない。
「伏線、たくさんありますから」
したり顔の僕とは対照的に、福良さんは苦笑した。敵わないね、なんて呟いて。
用意周到、伏線全てぬかりなく。すきになってほしいもん、ね。
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時