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「ありがとうございます…」
私よりもよっぽど女子力の高いハンカチを受け取って、濡れてしまった手元を拭く。パソコンは無事だったものの、湿ったワンピースは嫌な感じがした。早く乾かないかなあ。
「ハンカチ、洗って返します」
「えぇ、いいよこのままで」
借りたものをそのまま返すのは気が引ける。それなのに、でも、と私が食い下がるより速く、福良さんはハンカチを取り上げてしまった。彼の手のひらの中だと、青い花の刺繍はなおさら不釣り合いに感じる。
「それ、福良さんぽくないですよね」
疑問に思ったことをすぐ口に出してしまうのが私の悪い癖。私の質問を聞くと、彼は少しはにかんでハンカチを丁寧に畳んだ。
「…彼女に、もらったやつなんだよね」
訊いてから後悔するのはよくあることなのに、どうして訊く前に予想しておかなかったんだろう。疑問に思ったことをすぐ口に出してしまう、自分の悪癖が恨めしい。
「そうなん、ですね」
何も返事をしないのはおかしいかも。そう思ってとりあえず相槌を打ったけれど、私は上手く笑えていただろうか。そんな自信はなかったけど。
ガリ、と音を立てて飴を噛み砕く。…福良さんのことが好きだなんて、今更気づきたくなかった。ずっとずっと憧れだと思っていたこの気持ちが、恋だと知ってしまったから。
胸のこの痛みは、噛み砕いた飴の欠片のようには、飲み込めないらしい。チクリチクリと私を傷つけていくばかりだった。
明日から私、笑顔で話せないかも。だって、もう、戻らないから。
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時