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「じゃあ帰りましょうか」
「は、はい」
河村さんに仕事が終わったと告げると、駅まで一緒に行きませんか、と提案を受けた。以前と同じになりつつある状況に、じんわりと手に汗が滲む。
二人の間に会話はなくて、只々歩を進めるだけ。普段からよく喋る私にとって、会話がないのは相当辛い。ああもう無理だ、と沈黙に耐えきれなくなったとき、彼がピタリと足を止めた。
「Aさん」
いつもと変わらない声のトーンなのに、手はものすごく震えていた。私、フラれるのか。せめて泣くのはやめよう、ちゃんと笑って話さないと。そう覚悟を決めて彼に視線を向けると、耳を赤くした彼が、チューリップの花束を差し出していた。
「っ、え」
「Aさん、この間はすみませんでした」
ろくに返事もせずに、不安にさせて。きゅう、と花束を持つ手に、力がこもったのが分かった。
「好きの一言さえ言えない僕で、よければ」
ゴクリと喉が鳴った。真冬だというのに頬は熱くて、口から心臓が飛び出してしまいそうだった。
「付き合っていただけませんか」
「…はい」
そっと花束を受け取って、精一杯微笑んだ。嬉し涙なのか、緊張が解けたからなのか、どうにも泣けてしまって。あたふたと狼狽える河村さんに、好きですともう一度告げた。小さくもしっかりと頷いてくれた彼に安堵して、また涙が出てきてしまったけれど。
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「どうして、チューリップなんですか?」
「チューリップの花言葉、知らない?」
こくりと縦に首を振ると、彼は手を口許に当てて小さな声で囁いた。
「愛の告白、ですよ」
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チューリップの花言葉『愛の告白』
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覆水の刺繍盆に返らず/fkr→←チューリップを携えて/kwmr
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作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時