検索窓
今日:1 hit、昨日:36 hit、合計:24,776 hit

ページ13

*

「じゃあ帰りましょうか」
「は、はい」

河村さんに仕事が終わったと告げると、駅まで一緒に行きませんか、と提案を受けた。以前と同じになりつつある状況に、じんわりと手に汗が滲む。

二人の間に会話はなくて、只々歩を進めるだけ。普段からよく喋る私にとって、会話がないのは相当辛い。ああもう無理だ、と沈黙に耐えきれなくなったとき、彼がピタリと足を止めた。

「Aさん」

いつもと変わらない声のトーンなのに、手はものすごく震えていた。私、フラれるのか。せめて泣くのはやめよう、ちゃんと笑って話さないと。そう覚悟を決めて彼に視線を向けると、耳を赤くした彼が、チューリップの花束を差し出していた。

「っ、え」
「Aさん、この間はすみませんでした」

ろくに返事もせずに、不安にさせて。きゅう、と花束を持つ手に、力がこもったのが分かった。

「好きの一言さえ言えない僕で、よければ」

ゴクリと喉が鳴った。真冬だというのに頬は熱くて、口から心臓が飛び出してしまいそうだった。

「付き合っていただけませんか」
「…はい」

そっと花束を受け取って、精一杯微笑んだ。嬉し涙なのか、緊張が解けたからなのか、どうにも泣けてしまって。あたふたと狼狽える河村さんに、好きですともう一度告げた。小さくもしっかりと頷いてくれた彼に安堵して、また涙が出てきてしまったけれど。




----------------




「どうして、チューリップなんですか?」
「チューリップの花言葉、知らない?」

こくりと縦に首を振ると、彼は手を口許に当てて小さな声で囁いた。

「愛の告白、ですよ」

________________________

チューリップの花言葉『愛の告白』
________________________

覆水の刺繍盆に返らず/fkr→←チューリップを携えて/kwmr



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.1/10 (43 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
98人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:エリッサ | 作成日時:2021年1月7日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。