…は(笑)！ちっちぇーな！ ページ5
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「あっ、見えたー！」
「…は(笑)！ちっちぇーな！」
遠くの空に、小さな打ち上げ花火が見える。
花火会場はそれなりに離れてて、打ち上げられてる大玉の花火はまるでピンポン球。
泡が弾けるみたいに、次々と上がっては丸く弾けて消えてゆく。
その何秒か後に、遅れて届く小さな音。
「やっぱこっからじゃ遠いなー…。大きさも音も、全然迫力に欠けてんじゃん」
「でも、遠い分だけ全体が見えて綺麗だよ。
いつもの夜景にぽんぽんとスタンプ押してるみたいで…すごく可愛い…」
ビール缶を両手で胸の辺りに持ち、Aは楽しそうに遠くを眺めてる。
「それに…ほら。しだれ桜みたいな大きな花火がたくさん上がったって、ここからだと全部がまあるく広がって落ちて消えるところまで見えてて…本当にすごいよ…。
キラキラ光って…すごくきれい…」
「……」
花火に見とれてる横顔。
襟足から覗く白いうなじに、後ろに束ねてまとめた長い髪。
少しだけ落ちた後れ毛が、夜風に揺れている。
そして…
長い睫毛に…赤い紅を引いた口唇…。
「…なあに？」
「や…(笑)」
「？」
オマエに見惚れてたんだよ…なんて、照れくさくて言える筈もなく。
何でも無いよとばかりに右手で顔をごしごし擦って誤魔化して。
「…見て、和也！ハート形！」
「おーっ、すご！」
逸れた話に乗じて、オレも空に浮かんでは弾けて消えるハートたちを隣で眺めた。
「嬉しいな…」
花火を見つめたまま、Aが口元を綻ばせる。
「…？ハート形が？」
「違うよ(笑)！
今日は、少しでいいから夏祭り気分を和也と一緒に楽しめたらいいな…って思ってたの。それが、まさかこんなにいっぱい楽しめちゃうなんて。
しかも、花火大会の花火まで一緒に見れて」
私にとって、あのスイートルームからの夜景とここからの夜景は特別だから…とAが目を細めて続ける。
その夜景の記憶にまたひとつ、大事な想い出が加わったのだと。
2人でこうして時を重ねてゆけることがとても嬉しい。これからもずっと大切にしたい…と。
「すべてに感謝してる。和也、ありがとうね…」
ふんわり笑って振り向くAに、柄でもなく胸がキュッとする。
オレはきっとこの先も…
何万回だってAに惚れて、何万回も愛おしく思うんだろうね。
顔を傾けて覗き込むと、これまた嬉しそうにゆっくり目を閉じるもんだから。
誘われるように、赤い唇にそっと口づけた。
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作者名：kico
| 作成日時：2020年7月2日 23時
