Kleinod Ⅴ (ページ9)

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「彼」は、彼だ。
反発していても、自分の言葉なのだ。
「彼」は、毒だ。
故に「彼」に向き合う度、耐性も侵し返す力も強くなる。
…いいや、実際はただ自分が凶悪な毒になっているだけなのだが。
そんな事を繰り返せば、彼はいっそ「毒」に、自分自身に、苦しむようになる。

「彼」は笑う。
《俺だってこんなに一緒にいれば愛着も湧くんだよ》
「彼」は、何もグループＳのメンバーを嫌っている訳ではない。
「彼」が１番、何よりも嫌っているのは彼である。

「彼」は言う。
《いいなぁ、俺はあいつと一緒に居て》
「彼」は謂う。
《なぁ俺、少しくらい「俺」と代わってくれよ》

「彼」は、いいや、「彼」も、グループＳのメンバーを愛していた。
故に彼がメンバーを独り占めしているのが許せない。赦せない。
だから、「彼」は「彼がメンバーから嫌われるように」仕向けている。

「彼」はそして最後にまた笑った。
《なぁ、苦しいか？》

田中「…苦しい…？わかんねぇよ、そんなの…」
苦しさなんて常時付き纏っている。
田中「いつも俺には「苦しさ」しかねぇのにさ…」
森本「樹…」
今更聞かれたって、分かる訳ないじゃないか。
今のこの状況が苦しいのか、自分が苦しいのか、そもそも何に苦しんでいるのかなんて。

《辛い？わからない？じゃあこの手を取るだけでいい》
森本「ううん、違うよ。樹の中にはそれしかないわけじゃない」
何だか、甘ったるい匂いがする。
まるでいなくなってしまった彼のような、

《簡単な話だよ。目を閉じて、手を離すだけでいい》
森本「静かなところは苦手だと思うけど…安心して、樹、」
声が反響する。ふわふわと甘ったるい匂いがする。
あぁ、何だか考える事に疲れてしまった。
瞼が重く、立っていられなくなる。
…こんなに静かに眠れるの、何年ぶりだろう。
森本「俺がちゃんと賑やかな場所に連れていくから」

【誰かが嘲笑う声がした】