Kleinod Ⅴ (ページ8)

今日:24 hit、昨日:4 hit、合計:172,244 hit

＊ページ8

目の前の光景に、心臓が凍り付く。
吐息に微量の毒を混ぜて、松村の動きを鈍らせて、そのまま気を失わせるように手刀を食らわせた。
頭の中で、全ての事が合致する。
「俺」があんなに同情するように勧めて来たのは、まさか自分が入る事で森本が怪我するように促す為？
田中「お前…！」
思わず出てしまった声に、「俺」がクスクスと笑う声がする。

田中「お前…！だからあんな事！！」
《どうして「俺」を責める？「俺」は俺の気持ちを代弁しただけ、俺は自分に正直に行動しただけじゃねえか》
田中「でも俺を唆して…！」
《そもそも、あいつらから遠ざける「俺」を忌み嫌ってたのは俺の方じゃねえか。「俺」に怒るのはお門違いじゃねえのか？》
ジェシー「樹、樹！大丈夫、慎太郎ちゃんと俺が救護するから！」
森本「そうだよ樹、俺元気だから、ね？」
宥めるような2人の声がやけに遠く感じる。

《あぁ、それともいつもの「俺」の方が好みか？ま、でもさ、なぁ俺、まだあいつらといるつもり？》
田中「…当たり前だろ、お前が何を言おうと俺はあいつらと、」
《でも慎太郎があんな風になったのは俺のせいだよなぁ？》
ハッと、その言葉に森本の方を見る。
赤く濡れた腹部と手が目に入って、一気に罪悪感が押し寄せた。
《なぁ、俺。俺に、あいつらと一緒にいる資格なんてあると思ってんの？》
血の気がサッと引く。
黙りこくってしまった自分を心配そうに見つめるジェシーと森本の視線も、田中の視界には入っていない。

彼は、いつだってメンバーを1番に信頼していた。
彼の「拠り所」は「グループSの信頼」だった。
でもその「拠り所」は、目の前で砕かれて消えてしまった。
その時に、気付くべきだったのである。
彼が、「彼」の言葉を聞いている事に、「メンバーへの信頼」を疑ってしまった彼が、「自分への信頼」を「拠り所」にしている事に。