Kleinod Ⅴ (ページ35)

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森本「お前は樹じゃない！」
松村にどう声をかけたらいいかわからず、ない頭をぐるぐると回しているとそんな悲痛な叫びが聞こえてきた。
《じゃあDr.Eilは？高地優吾は？全員「偽物」だ、「俺」と、何が違う？》
「あれ」の言う言葉が、妙に突き刺さる。
背筋が凍った気がするのは、きっと副作用の所為だけじゃない。

「そうだよ、「Dr.Eil」も「高地優吾」も偽物。作り者で、ここには存在しないんだよ」
呼応するように「彼」が同調の返事を出した。
困ったような笑みを浮かべながら、どこかから取り出したシートを取り、丁寧に顔を拭く。
「不思議だよね。化粧ってさ、男性でも極めちゃったら本当に誰が誰かわからなくなるんだよ」
やっと見慣れた顔に戻ってくれた「彼」は、それでも今までジェシーが共に時を過ごしてきた「Dr.Eil」でも「高地優吾」でもないような気がした。

「だから、グループSには戻れないよ」
森本が「あれ」の手を弾いたのと、「彼」がそう小さく呟いたのはほとんど同時だった。
「…それでも、「僕」の言葉は聞いてくれないのかな」
そう言った「彼」の視線は松村の方に向けられる。「彼」は1つ息を落とした。
刹那、空気が変わった気がした。

高地「北斗」
松村「！」
空気の変わった原因、目の前には確かに「高地優吾」がいた。
先程までどことなく違和感をはらんでいた「彼」はなりを潜め、散々見て聞いて喋ってきた「高地優吾」が目の前で、松村に語り掛けた。