Kleinod Ⅴ (ページ31)

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森本「樹！樹返ってきて！」
彼が懸命にこちらに呼び掛ける声がする。
田中(…ねぇ、わかったでしょ、俺は、返してもらわないといけないの、)
ふらふらとする思考の中で、確実に相手を刺すように言葉を紡ぐ。
田中(返して、…俺を、返せよ！)

《…あぁ、うるせぇ。お前の所為で俺が起きちまった、折角いいところだったのに》
森本「お前！やっぱり、樹の事！」
《当たり前だろ、「俺」は俺が大っ嫌いだ、嫌な者は消したいだろ》
頬に痛みが走る。どうやら森本が頬を殴ったらしい。
上手く行かずに苛立っている「あれ」に、田中は負けじと声をあげる。
幸いにも、罵詈雑言のサンプルは今まで散々受けて来たのだ。
思ってもいない事を口にして、相手を苛立たせて、それで相手も消耗して、

《――あー、うるせぇうるせぇ！少しは黙ってろよ！》
田中(お前がいつも俺にしてる事をそっくりそのままやり返してるだけ！)
《折角無抵抗になってくれたって言うのに、ふざけんなよ…》
田中(だって、お前は俺じゃない！早く返せよ！)
《うっせぇなぁ…こいつの事怪我させたくせして、何でお前の方が優遇されるんだよ！》
田中「お前だって、俺に成り代わる為にメンバーの事唆したくせに、仲間の事なんか何とも思ってないくせに！！」

ピタリ、と「あれ」が動きを止める。
ぐわん、と入ってきた憎悪の感情に、吐き気がした。
《……はぁ？》
[…ふざけんなよ]
確かに自分に向けられた言葉は、甘酸っぱい花蜜を助長させるかのように溢れ出した。
《自分は悪くないみたいな顔しやがって…お前が1番の「毒」だ、》