Kleinod Ⅴ (ページ19)

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42:zuruck ページ19

森本「樹！」
意識が覚醒し、そんな彼の声と顔が覗き込まれた時。
自分はひっそりと心の中でほくそ笑んだ。
声になるかならないかくらいの呻き声をあげて起き上がり、「…わり」とだけ言葉を漏らす。

森本「もう！俺の事は気にしなくていいってば！」
《でも、》
森本「俺はこの通り元気だし！」
《…本当、悪かった》
森本「……？」
何やら疑問を浮かべているような顔をする森本にバレないように、あたかもいつも俺がそうやっているように、「俺」の声がうるさいのだと、そう体現するかのように振舞う。

森本「ねぇ樹、どうしたの？いつもより「あれ」、酷いの？」
《……うん、ちょっと》
ほら。そうすれば、きっとバレない。いや、この際バレても面白いからいいんだけど。
少なくとも、その時は今ではない。

その後入ってきた京本曰く、どうやら高地を探し出さなければメンバー及び自分の命は危ないらしい。
それは困る。折角やっと俺から主導権を奪う事が出来たのに。
やっと、自分も愛しているメンバーを「俺」のものに出来そうだっていうのに！

俺と「俺」は記憶も感情も思考も何もかも全部を共有している。
当たり前だ、同じ1つの身体なのだから。
おかげで、ネオン街に伝手がある事も、どんなクラブかも説明出来る。
メンバーは自分が入れ替わっている事に気付いていない。
森本はどうやら何か違和感を抱えているらしかったが、いつも俺がそうしていたように振舞えば、多少疑念は晴れたらしい。

そうして、かなり大きめのクラブに入って、自分は単独で2階のVIP専用の階層へと移動した。
ここにいてくれたら、きっと面白い事になる。
なんて、やっと表に出せた笑みを零してVIP階を歩いて行った。