「好きだよ」 (ページ34)

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79話　side-mm ページ34

あのあと、ラウールから「先帰ってて」と連絡が来て康二と2人、駅まで歩いて改札で別れた。
康二にはめめ大丈夫？１人で帰れる？とめちゃくちゃ心配された。
なにか浮かない顔をしていたらしい。
大丈夫だよ、とまだ心配そうな顔をしている康二に言った。
kj「なんかあったらすぐ言ってな」
康二はそう言うと、ばいばいと言って反対側のホームに走っていった。

いつも通り１人で家に帰ると、玄関に見たことのない革靴があり、リビングから知らない男の人の声が聞こえてきた。
盗み聞きは良くないってわかってるけど、内容が気になってしまい、私は聞き耳をたててリビングのドアの向こうの声に集中した。

「お母さんはご存知でしたか？学校に無断でアルバイトをしていたことを」
「…いえ、今はじめて知りました」
母の怒りを圧し殺したような声が聞こえる。
「目黒くんもなんで無断で、それにお母さんにも相談しないで夕刊配達のアルバイトなんてしてたの？」
男の人＿多分弟の担任だろう、がきっと母の隣に座っている弟にそう質問した。
「………」
弟は黙ったままだ。
「ちょっと、黙ってないで答えなさいよ」
母の怒ったような声が聞こえた。
…これはまずいかもしれない。いつ母が暴れだしてもおかしくない。
私はそう思い、ある人に連絡をした。
お母さんが暴走するまでに来て…！

「目黒くんは何かアルバイトをする理由があるのかな？例えば、好きな本を買うため、とか」
「……」
「うーん、答えてくれないか…」
弟の担任の声が聞こえたその時。

がちゃり、と目の前で聞き覚えのありすぎる音がした。

気づいた時にはもう遅い。

「あんたなにしてんのよ！！盗み聞き！？」
ぐい、と腕を捕まれて引っ張られる。
その勢いでリビングの床に投げられた。
思い切り投げられたため、受け身もうまくとれず、全身を床に打ち付けじんじんと痛い。
…弟の担任と目があった。まだ若い、新任だろうか。
当事者なのにまるで他人事のようにこの状況を見ている自分がいる。
担任はびっくりしているのか固まって動かない。

「ねえ偽者。あんた知ってたんでしょ？この子がアルバイトしてるって。なんで教えてくれなかったの」
母はしゃがむと私の髪を引っ張って顔を上げさせた。
一応他人がいるからか、いつものように怒鳴り散らすことなく、静かな声でそう言った。

「…知らない」