「好きだよ」 (ページ33)

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78話　side-mm ページ33

私は自分に課した約束も守れない、意志の弱い人間だ。
女の子の友達は作らない、ラウールの前でそう言ったはずなのに。
今だって泣いている康二を見て、可愛いって思ってしまってる。

kj「めめ？」
一点を見つめて黙りこんだ私に康二が声をかけた。
「ん？」
kj「ぼーっとしてたから具合でも悪いのかなって思って」
「…なんでもないよ」
kj「そう？ならよかった」

なんでもない、訳がない。
さっき運ばれてきたカフェラテに口をつけてそう思った。
康二は優しいし可愛らしい、仲良くなれば人懐っこい犬みたいにくっついてくる。
…最初はあの子(・・・)と重ねていたけど、康二とあの子は全然違う。
少し似てる部分はあるけど、完璧に同じじゃない。

康二にめめ、って呼ばれるたびに胸がじーんって温かくなるのは、名前を呼ばれるたびに嬉しくなってしまうのは。
ああ…今私、確実に康二に恋をしている。
まるで誰かが歌ってるラブソングみたいだ。

…康二は引くかな。
私が康二に恋愛感情を抱いてることを知ったら。

kj「ねえ、めめ。夏休みってなんか予定とかある？」
スマホを手に持った康二にそう聞かれて、スケジュールを開いた。
去年と同じで見事に真っ白。去年のこの時期はもうラウールと仲良かったけど、休日も一緒に遊ぶとかはなかったし。…今もないけど。

「予定とかはないよ」
私がそう言うと康二はさっきの遠慮してる顔から一転、ぱあっと笑顔になってこう言った。
kj「ほんま！？私、めめと行きたいとこあるんよ！」
康二はそう言うと、スマホを操作してとあるサイトを見せてきた。
kj「近くに新しくショッピングモールできたらしいから一緒に買い物しよう！！」

ショッピングモール。
その言葉を聞いた瞬間、私の中に思い出したくない嫌な記憶がよみがえった。

感じたことない熱風、火薬の臭い。
爆風で押された体は数メートル浮いてコンクリート製の地面に叩きつけられて。
数回聞こえた爆発音。

そして……さっきまで一緒だったのに、まだ隣にいないあの子(・・・)。

kj「めめ？めめ？大丈夫？」
またどこかに行っていた私を康二が心配そうに見つめている。
「…大丈夫」
kj「ほんとに？さっきもぼーっとしてたし…」
「ほんとに大丈夫だから。ショッピングモール行こ」

きっと別のショッピングモールだから、大丈夫。
あのときのことなんてきっと思い出さないよね。
大丈夫大丈夫、そう自分に言い聞かせた。