INNOCENT DAYS ３

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キャップにマスク姿。



暗くてはっきりとは見えないけど、そのシルエットだけで高嗣だって確信できる。



被ってたキャップを取りながら、最後尾の開いてる席に座る。



今日は一日仕事だって言ってたのに………来てくれたの？



こんなところに来て大丈夫？、、、っていう少しの不安よりも、やっぱりここまで来てくれたことが嬉しくて。






ピアノの前に座って、深呼吸して気持ちを整えると、、、


“弾ける”


そんな気がした。





さっきまでの緊張感は消えて、そこから先はもう………気持ちの赴くまま。





ラフマニノフのピアノソナタ第2番。



複雑なパッセージの多い難曲だけれど、荘厳で奥深い美しい曲。



鍵盤に魂を込めるように弾くと………今までピアノで味わった辛さも悲しみも絶望感も、溶けて全て流れ去っていくような感覚になる。




気持ちいい！






結局私にはピアノしかなくて、、、



でも、私にはピアノがあったから出逢えた人かいた。



新しい世界を教えてくれた大事な人。



そんな幸せをかみしめながら、メロディーに自分の全てを委ねた。









最後の和音が余韻を残したまま響き渡ると、その後に訪れる一瞬の静寂。



そして、会場が大きな拍手に包まれた。



満ち足りた気持ちで弾き終えステージの中央に進むと、会場の一番後ろにいた高嗣が立ち上がって出て行くのが見えた。



………来てくれて、ありがとう。



ちゃんと頑張れたよ。








本当は一番に聞いて欲しかった高嗣が来てくれて、、、すっごく嬉しかったよ。






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全員の演奏が終わり審査を待つ時間、木崎さんが控室に様子を見に来てくれた。



「素晴らしかったよ、思ってた以上に良かった……Aちゃんの演奏。」



「ありがとうございます。木崎さんのおかげです。」



コンクールへの出場を勧めてくれたのは他ならぬ木崎さん。



結果がどうとかよりも、より技術を磨くことでピアノに対するモチベーションも上がってとても勉強になったこと…感謝してる。



「力強さがあって、ピアノに対する迷いが消えたのがよくわかる演奏だった。ホントにすごかったよ。」



演奏を終えてちょっと放心状態になってた私に、嬉しい言葉をたくさんくれる。



そして、更にドキッとする一言。



「………彼、来てたでしょ？」



「え？………………///。」



「Aちゃんの出る時間を教えて欲しいって、彼から連絡があったんだ。」



「！！！」




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