INNOCENT DAYS ３

＊127 ページ30

.



赤や黄色に色付いた街路樹の紅葉に、過ぎ行く季節の早さを感じる。



会場に入る前……どこまでも高くて深い青が広がる秋の空を見上げて、深呼吸する。





昨日の夜は、あれから……高嗣のおかげなのか何だか気持ちが落ち着いてぐっすり眠れた。



今日は、ピアノコンクールの本選。



朝からやっぱり緊張してるけど、胸元のネックレスに手を置いてもう一度小さく深呼吸して気合いを入れると、会場入りした。



演奏用のドレスに着替えてリハーサルを終えた後、髪やメイクをきちんと整える。



鏡の前の自分に“大丈夫”って言い聞かせながら。





今日選んだのは、光沢のある深いグリーンのドレス。



これは、母が生前私のために用意してくれたもの。



鮮やかな色遣いの生地に軽やかなチュールを重ねたデザインで、胸元とドレスの裾に花柄の優しいレースが彩るAラインのロングドレス。



優美で大人っぽいデザインは、当時の私にはまだ不釣り合いだったかもしれない。



でもあれから何年も経って、今…鏡の前に自分にしっくり馴染んでいるような気がする。



それに、グリーンは高嗣のメンバーカラーだって聞いて………今日は絶対このドレスにしようって思ってたから///。



大きく空いた胸元のデザインには、高嗣からのネックレスだけでは少し淋しいから、母の形見のパールのネックレスを重ね付けする。



2つ、長さのバランスもちょうどいい。



母からも、、、高嗣からも///、守られてる気持ちになれる。









今日は、木崎さんやちいちゃんをはじめ音大の友達の他に、わざわざ田舎から父や弟まで応援に来てくれてる。


みんな、ありがと。



本番前に少しだけ会うことが出来て、やっぱりホッとした。



でも、予選の時と違って客席のほとんどが埋まってるって聞いて、気持ちも引き締まる。




まもなく、私の出番。









名前を呼ばれ、ステージに向かった。




「いつも通りに」
「自信をもって」



木崎さんからのアドバイスは、最近ではもう技術的なことよりもほとんどメンタルのこと。



萎縮せず前を向きなさい、って何度も言われた。



でもやっぱり緊張で足が震えてる。



広いステージの真ん中に進んでお辞儀をする。







ふと、視界の隅に捕らえた人物。



会場の一番奥、重い防音の扉が…今まさにゆっくりと押し開かれ、暗い客席にほんの少しホールの外から漏れて入って来る光と…人影。





嘘………。



あれは、、、高嗣///？


.

＊128→←＊126〜Side:2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す