日日是好日 2

ぴゅあぴゅあな丸山君 ページ45

ぴゅあぴゅあな丸山君






丸「せんせぇ…」


放課後の保健室。
弱々しい声が聞こえて振り向くと、胸を押さえて眉を下げた狸顔の男子生徒が立っていた。

丸山君。

いつもにこにこ元気印のはずの彼が、今日はどういうわけか弱り切った顔。


「どうしたの？」

丸「あの、僕病気じゃないかなぁ」


そう言って泣きそうな顔でギュっと胸を押さえたので、手招きしてとりあえず一番近いベッドに座らせる。


「胸が痛いの？」

丸「うーん」


うむ、脈は正常、、、よりちょっと早いか？
手首を取って脈を診ている間も眉間に皺を寄せてぎゅっと目をつむっている丸山君。

近くで見るときれいな顔してるなぁ。肌もぷにぷにでつやつや。


「どんな感じに痛いの？」

丸「痛いっていうか…バクバクすんねん。こう、ギュィィィーンってなって苦しい感じ」


丸山君はほら、と言って私の手を取ると、おもむろにブレザーをめくって左胸に押し付けた。


どっくんどっくんどっくん

…動いているけど、ギュィィィーンはちょっとわからない。


丸「――僕、おかしいんかなぁ」

「そんなに痛いの？」

丸「イタイ、っていうか」

丸「くるしい」


そう言ってまた胸を押さえた彼は、いつもの元気印をどこかに置いてきている。






丸「今日の昼休み、彼女とご飯食べる約束してたから、いつもの待ち合わせ場所に行ったんやけど」

丸「そしたら亮ちゃん、あ、亮ちゃんって僕の友達なんやけど。その亮ちゃんと彼女が一緒におって」

丸「二人がキスしてるとこ見てもうた」


おお、昼ドラみたい…。


丸山君はまた胸を押さえてぎゅうっと眉間にしわを寄せた。


丸「そっからもう胸がバクバクしてあかんねん」

「それは正常だよ」


彼女の浮気場面を目の当たりにして動揺したんだね。


丸「その後、彼女なんて言うたと思う？」

丸「“錦戸君と一回キスしてみたかった。本当に好きなのは丸ちゃんだから”やって」


なんだそれ。ろくでもねえ彼女だな。


丸山君はそこでちょっと顔をあげて、ウルウルした瞳でこっちを見た。




丸「なぁ先生、女の子は好きじゃない男とでもキスできるん？」




そんなぴゅあぴゅあな顔で聞かれたらいい加減に答える訳にもいかないと思って、私も居住まいを正す。


まあでも、一般論としては


「できる、んじゃないかなぁ」

「できるかできないかで言ったらね。一番好きな人としかできない、っていう事じゃないかも」






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