日日是好日 2

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「前の会社、新卒で入ったんですけど、勝手がわからなくて全然馴染めなくて。何か言われるのも怖いから表情を消してたみたいで」

横「うん」

「社会人向いてないとか、わからないならわかるまで帰るな、とか否定されるのもしょっちゅうで、怖くて」

横「うーん」

「結局体壊して退職してしまって」


横「うん」


あほみたいに「うん」しか言えん俺を見て彼女は自嘲気味に笑って、俺が買ってきたコーヒーをちょっと飲んだ。


無理に笑わんでええよ。

きつかったら言わんでええし。



「このコーヒー、父が好きだったので、私も昔から大好きだったんです」


いつも飲んでるから、それが好きなんやと思って買ってきたんやけど。



「退職の時は胃腸壊してコーヒーも飲めなくなって、何かもういいやーって思ってたんですけど」

横「うん」


「これの広告、ちょっと前に新しくなったじゃないですか。あれ見て、やっぱり飲みたいな、と思って」

横「うんうん」


「体治してコーヒーが飲めるようになったら、何かしてみようと思って」

「きっかけをくれた広告のことを調べたら、今の会社の求人にたどり着いたので」



「いまは主任が買ってきてくださったコーヒーがとってもおいしいです」



そう言って彼女は俺を見て


ちゃんと、にっこり笑った。




横「うん」


俺はあほみたいに相槌を打つしかできんけど。


まっさらではない

辛い思いして、俺の前に現れた目の離せない子

ほんとは仮面の下にいろんなかわいい顔が隠れているはずや



ちゃんと笑って仕事ができるようにしてあげたいし、いろんな顔が見たい


仕事でも、仕事じゃなくても

俺の横で


ずっと、末永く。







「あの広告を手掛けた方は、今日いらっしゃいますか？」

「3課合同だって言ってたので、誰かわかる方がいらっしゃるかも、と思って楽しみにしていたんですけど」


横「あ、俺」

「えっ」

横「俺の担当だったやつ」


「うそっ」


横「嘘ってなによ」

「だって知らなかった」

横「聞かれへんかったから」


びっくりして敬語が取れたんもかわいいし、驚いた顔もかわいい。





横「会いたかった人に会えた所で」


横「Aさんは俺と付き合おうか」



真っ赤に染まった素の顔もかわいい。




「…うん」





彼女は、俺の横で嬉しそうに笑っている。

ええお花見になりそうや。





終

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