今日も彼女は想うだけ【煉獄杏寿郎】

　42 ページ42

.




学校に向かう途中のコンビニで
いつも先生が飲んでいる珈琲を二本買った。

珈琲は苦手だけど先生と同じものを飲みたい
なんて、子供じみたことを考えてしまう。





.






「伊黒先生！」



靴を履き替えていると化学教師の伊黒先生が
たくさんの教材を持ちながら玄関を通りかかった。


先生は女性アレルギー持ちのため、
話す時はいつも少し距離をあけてから話しかけるように心がけている。



「運ぶの手伝いますよ？」


「いや、いい。お前は何しに来たんだ」


「通知表と荷物を取りにきました！
ついでに中庭のお手入れもしようかと····！」


「そうか、熱中症には気をつけろ」


「はい、ありがとうございます！」



少しぶっきらぼうだけど根はとても優しい。


たまにこうやって声をかけると
いつも私の体調を気にかけてくれる。


伊黒先生にぺこりと頭を下げて職員室に向かう。






今日は野球部の練習試合が
グラウンドで行われているみたいで

選手を応援する保護者や生徒の声がどことなく聞こえる。

立ち止まって廊下の窓から外を見ると

ベンチから応援する控えの選手や
監督の横に呼ばれてアドバイスを貰う選手
全力でグラウンドを駆け抜ける選手が目に止まる。

みんなキラキラしてて、ちょっと羨ましい。




「何をそんな真剣に見ているんだ？」




不意に耳に届いたその声に、首を横に向けると
煉獄先生が窓枠に寄りかかりながらこちらを見ていた。



「……せ、先生……野球部の試合、見てました」



先生が近づいてきた気配にまったく気づかずで
心の準備なんてもちろんできていない。

落ち着け私！と自分に言い聞かせて
先生を見ると瞬時に視線を逸らされた。

「体調はもう大丈夫なのか？」と
窓の外を見ながら、先生が私に問いかける。


「はい、もうこの通りぴんぴんしてます！
色々とご迷惑をおかけして本当にすみませんでした」

「うむ！」


通知表を渡すから後で職員室に来なさいと言って
先生はそのままどこかに行ってしまった。





.





「…………」



この先私とどう接したらいいか分からない
＝避ける

は、なんとなく予想してたけど
こうもあからさまだと結構くるものがある。


まぁ、日も経ってないししょうがない…か。




.

　43→←　41

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す