今日も彼女は想うだけ【煉獄杏寿郎】

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私は再び階段に座り、先生を見る。


「お！土曜の夜なら空いていると返信がきたぞ！！」


口角を上げながら嬉しそうにメールを見せてくる先生は今まで見た中で一番幸せそうな表情をしていた。


土曜日の夜なら次の日休みだから
時間を気にしないでゆっくりできますね。


「乙葉？」









「おいどうした！」


「っ、あ、いえ」





きっと大丈夫。

何が大丈夫なのか
自分で言っててよく分からないけど。



「これで一安心ですね！返信も早かったですしわざわざ日にちを指定してくるって事はきっと乗り気なんでしょう！」

「だといいのだが...」

「何を急に弱気になっているんです？しっかりしてください！！」

「はは、そうだな」

「先生なら大丈夫です！
ただご飯中は食べることばかりに集中しないでちゃんと会話も重視してくださいね。先生はいつもうまい！しか言わないのでそこだけちょっと心配です！」

「それといくら緊張しているからといってお酒に頼ってはダメです！最初はなるべく飲むペースを合わせて下さいね。酔って迷惑をかけたりするのはマイナスポイントです！

それから──……」


不意に頭に乗せられる先生の手。


「……？」

「ああいや、一生懸命話す君が可愛らしくてな」

「…………」



にこっと笑った先生の手が三回くらい私の頭を往復して


離れていった



───…キーンコーンカーンコーン



「いかん！もう予鈴か！」



立ち入り禁止の屋上から
二人で降りてくるところを
誰かに見られるのは少し厄介だから

基本的にいつも私が先に戻って
時間差をつけてから先生が戻るようにしている。



「……今日は先生から先に戻って下さい！」

「何故？」



なぜって言われても



「とくに理由はないです！！」

「そうか？じゃあまた後でな」







先生の足音が聞こえなくなった事を確認して
一段一段ゆっくり階段を下りる。



スカートのポケットに手を入れて
ハンカチを忘れたことに気づく。


普段手すりなんて掴まないのに
今日はこの手すりだけが頼りで。


踏み外さないように
ゆっくり、ゆっくり下りる。




「────……」





このペースじゃ五限に間に合わないのに
足を前に進める事だけで精一杯で。




溢れ出すそれを必死に心の奥にしまい込んだ。



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