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夕陽は沈み、夜が訪れる。
静かになった病室のドアが静かに開いた。
訪問者が、姿を現す。
「調子はどうだ。」
「…傷自体は塞がってるらしいので、特には。」
「そうか。」
特に会話が弾む気配はなかった。
寡黙な雰囲気が、彼によく似合っている。
「…赤井、秀一さんですよね?」
「ああ。」
「どうして…助けてくれたんですか?」
Aは、ベッドの脇に立つ赤井を見上げた。
あの業火の中、意識の無い人間を助け出す事がどれだけ難しく危険な事か。
Aにとって数回会っただけの赤井が、どうしてそんな危険を冒してまで自身を助けてくれたのか、いくら考えても答えは出なかった。
「マスクの礼がまだだったからな。」
何でもない事かの様に赤井は答えた。
「マスク…?ああ…変装術を教えて欲しいって言った時の…。」
Aは改めて、あの雨上がりに出会った男の顔と今目の前に居る赤井の顔を、頭の中で見比べる。
「ああ。
だが、お前にもう変装は必要あるまい。」
「…あんなの、その辺のコンビニで買った安物ですよ。」
あまりに不釣り合いな対価に、Aは苦笑いを浮かべる。
「俺にはマスクの価値はわからん。
だが、この国にとって死なせてはならない奴の価値くらいはわかる。」
「……」
「それに」
赤井の視線は先程からずっとAを捉えている。
けれどAは、その時ばかりは赤井が自分ではなく、自分の奥の何かを見ている様な気がした。
「……?」
「君の父への礼がまだだった。
遅れてしまって申し訳ない。
もう君の父へ感謝を伝える事は出来ないが…せめて君に。」
「…っ‼」
赤井は、優しく笑っていた。
「貴方は…
零がキングで、貴方がルーク…
…ふふっ…、盤石の布陣ですね。
これなら…負ける訳がなかった。」
「それでも、クイーンが君でなければ
君の覚悟がなければ、この告発も組織の壊滅も、成し遂げる事は到底無理だった。
君が居てこその、盤石の布陣だ。」
Aもつられて笑った。
赤井は、この穏やかな空気が心地良くて堪らなかった。
1人の病室を警護する程、今の赤井は暇ではない。
けれど、今日ばかりは。
なんとも言い表す事の出来ない温かい気持ちは。
「…君は知らなくて良い事だ。」
「え?今なんて言ったんですか?」
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虎鉄(プロフ) - まみこさん» まみこ様、私こそ深夜にすみません!こちらにまで涙。一気読み+コメントする時間まで割いて下さり本当に有難うございます!松田氏なりに降谷氏とは違う道を進むのでお付き合い下されば嬉しいです。大切に書いた話なのでそう言って頂けて感無量です。 (2022年7月24日 0時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - 応援してます!!本当にこの作品は神です!! (2022年7月16日 1時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - こんばんは!!真夜中にすみません💦一気読みしました!マジで感動しました!!あー、夢主ちゃん良かったね!!と、保護者のような気持ちで読んでましたねw松田さんのほうも読んでます、頑張ってくださいね!! (2022年7月16日 1時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(消えた捜査官松田ver作成中)(プロフ) - ひゆめさん» ひゆめ様、一気読みのお時間頂戴しまして……!かつコメントまで下さり本当に有難う御座います。クロサギ懐かしいですよね(^^)当時は全く意味分からんまま見てましたが笑。読んで下さってありがとうございました(^^)!2と合わせての返信で失礼します。 (2022年6月12日 10時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
ひゆめ(プロフ) - 同じく一気読みしました!!クロサギ懐かしいと思いながら進めていたら凄く惹き込まれました。とても面白かったです。 (2022年6月12日 0時) (レス) @page50 id: 141a54d8d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年6月2日 0時