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「A…」
降谷は、赤井を追い越しゆっくりと一歩一歩ベッドに歩み寄る。
そこには確かに、Aが居た。
様々な機械に繋がれ、口元はテープで固定された人工呼吸器に覆われているものの、その顔はまるでただ眠りについているだけの様に穏やかなものだった。
心拍を知らせる電子音が鳴っていても、掛け布団越しに小さく上下する姿を見ても、降谷は確認せずには居られなかった。
降谷は恐る恐るAの頬に手を伸ばす。
その温かさに触れた時、降谷は赤井が居ることも忘れ、堪えていたものが一気に溢れ出した。
「A……っ‼」
Aが生きていた。
生きている。
降谷は、諦めていた幸せに泣いた。
ひとしきり泣いた後、降谷は手でその涙を拭い取った。
空気を読んだのか、退室していた赤井が丁度良い頃合いで入ってくる。
その手には、なぜかレントゲン写真が握られていた。
「俺も一か八かの賭けだった。
医師からすれば、奇跡なんて言葉じゃ片付けられないそうだ。」
「あの現場から、お前が救出したのか…?」
「不服か?」
「……」
「まぁ良い、…その答えはYESだ。」
降谷の頭の中で、思い出したくもないあの映像が再生される。
「でも、確かにあの時…Aは心臓を撃たれた筈なのに…」
「これを見ろ。」
その答えは、赤井が差し出したレントゲン写真にあった。
何の変哲も無い様に見えるそのレントゲンは、よく見ると明らかに異常だった。
「…っ⁉心臓が…右にある…」
レントゲンの上部には「綾瀬A」と個人の識別をするシールの他にもう一枚。
「内臓逆位、要注意」と赤文字で書かれたシールが貼られていた。
「内臓逆位…、聞いた事はあったがまさかこんな身近に居たとは…。」
内臓逆位は、病気という概念からは少し外れる。
遺伝子の先天的な異常により、心臓または臓器全てが通常の位置の逆にあるというだけで、機能的には何の問題もなく、未だにその多くは謎に包まれている非常に稀な現象である。
だけ、と言っても殆どの医療関係者は一生に一度出会えるか出会えないかの希少なもので、事故や病気などでの手術の際は、困難を極める。
「俺より、ここの医師に感謝するんだな。
殆どの者が諦めた状況で、一人だけ諦めなかった男が居たそうだ。
もっとも…その男はオペ室の悪魔と呼ばれているらしいがな。」
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虎鉄(プロフ) - まみこさん» まみこ様、私こそ深夜にすみません!こちらにまで涙。一気読み+コメントする時間まで割いて下さり本当に有難うございます!松田氏なりに降谷氏とは違う道を進むのでお付き合い下されば嬉しいです。大切に書いた話なのでそう言って頂けて感無量です。 (2022年7月24日 0時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - 応援してます!!本当にこの作品は神です!! (2022年7月16日 1時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
まみこ(プロフ) - こんばんは!!真夜中にすみません💦一気読みしました!マジで感動しました!!あー、夢主ちゃん良かったね!!と、保護者のような気持ちで読んでましたねw松田さんのほうも読んでます、頑張ってくださいね!! (2022年7月16日 1時) (レス) id: 9d3f4398ec (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(消えた捜査官松田ver作成中)(プロフ) - ひゆめさん» ひゆめ様、一気読みのお時間頂戴しまして……!かつコメントまで下さり本当に有難う御座います。クロサギ懐かしいですよね(^^)当時は全く意味分からんまま見てましたが笑。読んで下さってありがとうございました(^^)!2と合わせての返信で失礼します。 (2022年6月12日 10時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
ひゆめ(プロフ) - 同じく一気読みしました!!クロサギ懐かしいと思いながら進めていたら凄く惹き込まれました。とても面白かったです。 (2022年6月12日 0時) (レス) @page50 id: 141a54d8d9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年6月2日 0時