無敵のスピカ

CANDY-HOLIC …… りたわかめ 1 ページ8

ああ…、まただ。

長い廊下の向こうから、彼が女の子と寄り添ってこちらに向かって歩いてくる。

見たことのない女の子だ。

また新しい彼女？

今年に入ってから、何人目だろう。

女の子に肩とか二の腕を触られながら、彼はまんざらでもない顔をして好きなようにさせている。

彼が私に気付く前に、どこかの教室に逃げ込みたいところだけど。

知り合いもいないクラスに入って行く勇気はなく、彼が私に気付かないように顔を伏せて、

友達の陰に隠れるようにして、彼の隣をすり抜けることにした。









なのに、彼は私を見つけて、

「よ！」

なんて、無邪気に手を振ってくる。

私は作り笑いで頭を下げて、そそくさとその場を通り過ぎた。

しばらくして、そっと後ろを振り返ったら、

大口を開けて笑いながら、女の子の肩を抱いて歩いていく彼の横顔と背中が見えた。

彼は理解してんのかな、私があなたの許嫁(いいなずけ)だってこと。

私に諦めさせるために、見せつけでわざと女の子を侍らせているのか。

それとも、もうあの約束は彼の中ではなかったことになっているから、私のことなんか気にならないのか。

…どっちにしろ、彼は私のことなんか見ちゃいない。









私達が許嫁という関係になったのは、まだ幼稚園児の頃だったと思う。

お互いの祖父同士が決めたことではあるけれど、小さな頃から祖父母や父母に何度となく言われてきた。

「あなたは許嫁がいるんだから」

「そんなことしていたら、宏光くんに嫌われるよ？」

って、何度も繰り返し。

彼だって同じだと思う。

お正月には北山家へ、毎年お年始の挨拶に行くけれど、

いつも私はそこで、北山宏光の未来の嫁として扱われている。

私の２つ上の彼は、いつもそんな私の様子を飄々と我関せずって感じで眺めてるだけだけど。

きっと「許嫁」という私との契約を、自覚してるはずなのに。









昔は普通に成立していた許嫁制度だけど、現代では法で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」と定められているから。

どちらかが合意しなければ成立しない。

…だけど私は、周りの大人に幼少時からずっと摺りこまれてきたせいで、

小さな頃からずっと、彼のことが好きだった。

好きというより、「この人は私の将来の伴侶だ」と、子どもながらに自覚していたくらいに。

2→←7

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す