無敵のスピカ

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風呂あがり、わざと髪を乾かさないまま、Aの隣に腰かけた。

いつもは斜め前に座る俺が、いきなりそんな場所に座ったから、動揺してる？

だってさっき、その手がぎゅっと膝の上で握り締められたのを見ちゃったから。

「髪、濡れてるよ」

「うん
乾かすの面倒だから」

「濡れたままだとよくないよ」

「じゃあ、乾かしてよ」

首にかけてたタオルをぽいっと手渡したら、Aは律儀に隣から髪を拭いてくれる。

「ドライヤーどこ？」

諦めたような声でAがそう言うのを聞いて、

「洗面所」

そっけなくそう答えたら、Aは渋々と席を立った。









ドライヤーを手に戻って来たAは、俺の背後に立って甲斐甲斐しく髪を乾かし始める。

「今日の宏光、甘えすぎ」

とか、苦情を言いながら。

「いいんじゃない？友達なんだし」

わざと、「友達」という言葉を使って強調させてみたり。

いろんなところに罠を張り巡らせるけど、Aは一向に音を上げない。

「友達って、そこまでするかな」

不満げにAがそう呟く。

「するだろ」

「しないよ」

「俺はAが濡れた髪でいたら、乾かしてやるけど？」

「本当に？」

「Aが肩凝ったって言うなら、マッサージだってするし」

「宏光にドライヤーさせられてるから、肩凝ってる」

「する？」

「今はいい」

今、確実に２人の間には微妙な空気が流れていて、Aもそれに完全に気付いている。

早く言えよ。

俺のことが好きだって。









そのくせ、

「他に、私の為に何ができる？」

貪欲にもそんなことを聞いてくる。

「Aが熱でも出したら、おかゆでも作ってやろうかな」

「それが食べられないくらい体調が悪かったら？」

「スプーンで掬って食べさせてやる」

「それが熱くて食べられなかったら？」

「ふーふーして、人肌にしてからまた食べさせてやる」

…なんだ、この会話。

もう付き合い始めのラブラブカップルの会話じゃん。

Aは、それに気付いているのかいないのか、また次の質問を繰り出してくる。

「私の服のボタンが外れてたら、留めてくれる？」

「いいけど…、
俺の場合、留めるんじゃなくて外しちゃうかもね」

さすがにその回答には、Aも黙り込んでしまった。

今までこんなセクハラまがいの冗談、Aには言ったことなかったから。

もうこれだけ餌を撒いたんだから、そろそろ白状しろよ。

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