無敵のスピカ

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「ばいばい、」




でも最初の別れの時とは違う。
あの時は泣き崩れて自分を見失ってて
俺が引き剥がすまで縋りついてたけど。




今のAは自分で涙を拭いてから、
静かに、それだけ言って出て行ったんだから。









追える立場なんかじゃない。



でも重く閉まったドアの前まで駆け寄ってドアノブを回そうとしてる俺。









「･･･引き止めて、どうするつもりだっつの。」






彼女になって欲しいって？
俺達、この関係だから上手く行ってたんじゃねーのかよ？
あんなに俺の事好きだったくせに
そんな簡単に切れるもんなの？





わかんねーよ。
俺の彼女になったって終わりが来るだけじゃん。
こっちのが絶対ずっとこうしていられるんじゃないの？







なんて。
都合いいか。
都合のいい女だけだったはずのAは
俺にとっていつの間にかなくてはならない存在に変化してたみたいだ。



二番目の女、っていう俺だけの独りよがりな関係は
Aを繋ぎ止めとく手段だったんだな。



Aがそれが嫌ならもう、仕方ねーんだ。
そう思おうとして、







・・・それから一年。





今、目の前のウエディングドレスを着たAの隣りには俺の親友、真鍋が立ってる。



Aと別れてから居酒屋で再会した時
Aから電話が掛かってきて呼び寄せた張本人。




あの時も
あの後も
結局Aが俺と別れてから頼ったのは真鍋だったんだ。




敗北感でいっぱい。
なんだかんだ言って俺が遊びの男で
こいつが本命だったんじゃねーか？とか。





Aが俺に夢中だった事を忘れて
そんな僻みまで出てくるくらい、今のAは綺麗で大人の女に見える。



俺といる間は子供みたいな顔してたくせに。
いつの間にそんな、なんでもわかったような顔してんの？









幸せそうな二人をなに食わぬ顔で祝福するふりをした。



そして、あいつは程なくしてすぐ子供を産んだんだ。






それから十五年弱経った今
俺も結婚して子供も出来た。




でも、今、思う事は
どうしてあの時、ちゃんとAを彼女にしとかなかったんだって事ばかりだ。

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