花朝月夕

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駅までの道を、１人でトボトボと歩く。

もう外はいい感じに日暮れていて、夜と夕方の境目が遠くに眺められた。

この道を歩くのは今日が最後だな。

だけど、いい幕引きだったと自分でも思う。

眠ってる間にいなくなった私のことを、彼が少しでも綺麗な思い出に留めていてくれたら、

もうそれだけで私は１０年間も彼を思い続けた甲斐があるというものだ。

この駅までの風景をずっと覚えておこう。

私がシワシワのおばあちゃんになっても、鮮明に思い出せるように。

それくらい彼との僅かなひとときは、私の人生の中で一番綺麗な色をしていたと思うから。









駅に着く頃、朋から電話が入ってきた。

「今どこ？」

「もうすぐ駅」

「私も帰るからそこで待っててよ」

やけに慌ててる朋の声。

「もっといていいのに」

「なんか、霞さん達が変に落ち込んじゃってて
私もここの常連じゃないし、１人だと居づらいんだけど」

…まあ、そうだよね。

私も初めてホームパーティーに参加した時は、相当居づらかったから。

「その電話、どこからかけてんの？」

「廊下
トイレに行くふりして、電話してんだけど
何かあった？急に帰るとか」

そっか、朋は私達のやり取りは聞いてないんだ。









「北山くんは？」

「私が席を立った時にはまだ寝てたけど」

「そっか…
じゃあ、こっそり抜けてきなよ
あ、でも霞さんには挨拶してね」

「わかってる」

「じゃあ、駅前のコンビニにいるから」

そう言って電話を切ろうとした瞬間、電話口から朋の驚く声が聞こえてきて、

「Aちゃん？」

って言う、少し鼻にかかった聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「今どこにいんの？」

電話越しにその声を聞いただけで、体の力が一気に緩んでしまいそうになる。

「駅です
今から電車に乗るところなので」

咄嗟にそんな嘘をついた。

まだ駅にも着いてないのに。

だけど彼は簡単に見抜いてしまう。

「あ、今ファミマの前なんじゃない？
ファミチキ欲しいから買ってきてよ、人数分」

とか、何事もなかったかのように命じてくる。

何で場所までわかるわけ！？

「無理です、今から帰るので」

「Aちゃんってさ、嘘つくと早口になんだね」

電話口でくすっと笑われて、とうとう私は本当にその場にしゃがみこんでしまった。

何？この破壊力は。

会心の一撃をくらった感じ。

もうどう逃げても私は、彼から逃れられないんじゃないだろうか。

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