花朝月夕

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その言葉に、霞さんはあからさまにほっとしたように表情を崩した。

「だよね？
Aちゃんがそんな簡単な子じゃないってのは、私もよくわかってる」

うん、私は二度しか会ったことのない人に、うっかり惚れちゃうような人間じゃない。

但し、私はもう１０年も北山くんを見続けてきたんだ。

それは、霞さんも誰も知らない私だけの秘密。

「うちの旦那が、超心配性で
Aちゃんが北山くんに惚れてんじゃないかって、みんなが帰った後に深刻な顔で言ってきて
北山くんを見るAちゃんの目が、恋する乙女な感じになってるって言うからさー
一応、確認しておこうと思って」

なるほど。

霞さんには悪いけど…、旦那さんは非常に鋭いと思う。

私的に細心の注意を払って、私のよこしまな気持ちを見透かされないように、演技してたつもりなんだけど。

旦那さんは、見事にそれを見抜いてたってことだよね。









「もう行かない方がいいですよね？私」

そんな、曖昧な聞き方をしてしまった。

霞さんに決定権を与えるような、ずるい聞き方で。

「何で？
気にせずにおいでよ」

優しい霞さんは、そう即答してくれるけど。

北山くんと会う度に、幸せより罪悪感が増していくような気がして。

初めて会った日はあんなに幸せな帰り道だったのに、この間の帰り道は重苦しい気持ちでいっぱいだったから。

「旦那の言ったこととか気にしなくていいから
あの人達は、北山くんを守ろうと無駄に必死なんだよね」

「仲がいいんですね」

「北山くんがあんな仕事をしてるから、迷惑かけたくないんだろうね
ほら、北山くんも恋愛とか出来ないらしいから」

「やっぱりアイドルだからですか？」

「それもあるけど、自分でも決めてるみたいよ
一時の感情で、今まで積み上げてきたものを壊したくないって
それにスキャンダルになったら、メンバーに迷惑かけるしね」

…ごもっとも！

それでこそ私の好きな北山くんだ。

ストイックで目標のために真っ直ぐ突き進む、そんな彼だからこそ、好きになったんだ。

…決めた。

本当に私は、もう金輪際北山くんには会わない。

誘われても、絶対に断ろう。

私だって、彼を守りたいんだ。

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