星になんか願わない -Ａ

2019/03/20 ページ7

裕太が戻ってくることは、すぐに社内に広まった。

せっかく前に進んで外に出て行こうと思っていた私は、また引きこもりを余儀なくされてしまう。

通勤電車で会う女の子はみな、綺麗な色の服を身にまとっているのに、私だけがまだ冬色のまま。

裕太が戻ってくるってわかってすぐ、珍しく横尾さんにランチに誘われたんだけど。

席についていきなり、

「お前、大丈夫？」

不愛想にそう聞かれてしまった。

横尾さんが不愛想なのはいつものことで。

だけどその目の奥には心底、私を心配してる色が見えたから、つい素直にいろいろ話してしまった。

「大丈夫じゃないです
でも、大丈夫にします」

「他の課に配属させた方がいいんじゃないかって話にもなってたらしいんだけど、本人の希望らしくて」

「何で元の部署に戻りたいんだろ」

「過去の自分のことを知りたいんだって」

…驚いた。

裕太ってそんなタイプだったっけ？

過去になんか執着せずに、新しい自分をありのままに受け入れるタイプだと思ってた。

「なんかさ…、別人みたいだったって、課長が言ってた」

「別人？」

「ほら、あいつクールっていうか冷静っていうか、あんまり世の中のものに興味がないって感じだったじゃん？
課長、先週に玉森と面談したらしいんだけど
よくしゃべるし、顔つきも明るいし、本当に別人だったって」









「記憶の方は…、全然思い出せてないらしい」

申し訳なさそうにそう告げた横尾さんは、不思議な提案をしてきた。

「A、春の人事異動には間に合わないけど、今から秋の人事異動の希望を出すことは可能だから」

「異動…、ですか」

「Aが異動する必要はないってことは、わかってるけど
玉森は何も覚えてないわけだし、何の感情もないんだろうから
辛いのはAだけじゃん
…まあ、Aがもう一度最初から玉森とやり直す努力をするって言うんなら、話は別だけど』

１からやり直す…。

本当に裕太を取り戻したいなら、頑張ってみるのも手かもしれない。

ただ、「もう来ないで」って言われた時の裕太の迷惑そうな表情が、いつまでも頭の隅から離れなくて、きっともう頑張れないと思うけど。

「課長はお前らの関係を知らないから、玉森の指導係にAを指名しようとしてて
一応、それは止めておいた」

…指導係。

あーあ…、せっかくいい感じに忘れかけてたのに。

何でこんなことになっちゃってるんだろう。

運命は、本当に残酷だ。

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