星になんか願わない -Ａ

2019/7/4 ページ47

カーテンの隙間から朝日が差し込んできた頃、私は密かに溜息をついた。

もうこのまま、朝なんか来なくてよかったのに。

寝不足のまま出社すれば、すぐに上司に呼び出しを食らってしまった。

「A、異動の時期が来月頭に決まった
今月はもう有休を取っていいから、引っ越しの準備をした方がいい
それから…、」

そう言いかけて、上司は気まずそうに視線を落とした。

「飯塚から、Aから受けたパワハラのショックで今月いっぱい休職すると連絡が来た
でも、課のみんなはそんな事実はなかったという認識でいるから」

有休を取れというのは、私に出社するなってことなんだろうな。

私が課からいなくなるまでは休職する、みたいなことを言ったんだろうか。

でも…、確かに私は志穂ちゃんに酷いことをした。

確かに志穂ちゃんのやり方は褒められたものではない。

だけど私はそれだけ、彼女の心を傷つけてしまったんだ。







「今日から有休を取っていいから
仕事はみんなで割り振る予定だから、大丈夫」

上司にそう言われて、自分のデスクの荷物を片付けた私はそのまま帰途につく。

課内の人達は私の様子を痛々しそうに眺めているだけ。

裕太を視界に入れないように会社を出たけど、部屋に帰った途端、これからどうしたらいいのかわからなくなった。

自分でもまだ、自分の今置かれている状況がわかっていないんだ。

とりあえず部屋の解約をして、引っ越しの準備をしなきゃ。

てか…、本当に私は台湾に行っちゃうんだ？

このまま退社しちゃうっていうのも、もしかしたらアリなんじゃないかな。

そんなことを考えていた時、何故か志穂ちゃんから電話がかかってきた。








『今日から有休消化ですか？』

淡々とした口調で、そう訊ねてくる。

私が何も答えないでいると、

『お願いがあります
玉ちゃんと別れてくれませんか？』

と、いきなりそんな言葉を投げつけてきた。

「何で？
私が無事異動になったんだから、それで気が済んだんじゃないの？」

『もう知ってると思いますけど、私はAさんを異動させることだってできる力を持ってるんです
ということは、玉ちゃんの今後も私が好きに出来るってことなんですけど』

「…どういう意味？」

『これは取引なんです、Aさん
私は今、Aさんを脅迫してるんです』

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